十分ほど経たったころ、校医のマダム・ポンフリーがやってきて、ハリーの安あん静せいのため、チーム全員に出ていけと命じた。
「また見み舞まいにくるからな」フレッドが言った。「ハリー、自分を責せめるなよ。君はいまでもチーム始まって以来の最高のシーカーさ」
選手たちは泥どろの筋すじを残しながら、ぞろぞろと部屋を出ていった。マダム・ポンフリーはまったくしようがないという顔つきでドアを閉めた。ロンとハーマイオニーがハリーのベッドに近よった。
「ダンブルドアは本気で怒ってたわ」ハーマイオニーが震ふるえ声で言った。
「あんなに怒っていらっしゃるのを見たことがない。あなたが落ちた時、ピッチに駆かけ込んで、杖つえを振って、そしたら、あなたが地面にぶつかる前に、少しスピードが遅おそくなったのよ。それからダンブルドアは杖を吸魂鬼ディメンターに向けて回したの。あいつらに向かって何か銀色のものが飛び出したわ。あいつら、すぐに競きょう技ぎ場じょうを出ていった……ダンブルドアはあいつらが学校の敷しき地ち内ないに入ってきたことでカンカンだったわ。そう言っているのが聞こえた――」
「それからダンブルドアは魔法で担架たんかを出して君を乗せた」ロンが言った。
「浮かぶ担架につき添そって、ダンブルドアが学校まで君を運んだんだ。みんな君が……」
ロンの声が弱々しく途と中ちゅうで消えた。しかし、ハリーはそれさえ気づかず、考え続けていた。いったい吸魂鬼がハリーに何をしたのだろう。……あの叫さけび声は。ふと目を上げると、ロンとハーマイオニーが心配そうに覗のぞき込んでいた。あまりに気遣きづかわしげだったので、ハリーはとっさに何かありきたりなことを聞いた。
「誰か僕ぼくのニンバスつかまえてくれた?」
ロンとハーマイオニーはチラッと顔を見合わせた。
「あの――」
「どうしたの?」ハリーは二人の顔を交互こうごに見た。
「あの……あなたが落ちた時、ニンバスは吹き飛んだの」
ハーマイオニーが言いにくそうに言った。
「それで?」
「それで、ぶつかったの。――ぶつかったのよ。――ああ、ハリー――あの『暴あばれ柳やなぎ』にぶつかったの」
ハリーはザワッとした。「暴あばれ柳やなぎ」は校庭の真ん中にポツリと一本だけ立っている凶きょう暴ぼうな木だ。
「それで?」ハリーは答えを聞くのが怖こわかった。
「ほら、やっぱり『暴れ柳』のことだから」ロンが言った。「あ、あれって、ぶつかられるのが嫌いだろ」
「フリットウィック先生が、あなたが気がつくちょっと前に持ってきてくださったわ」
ハーマイオニーが消え入るような声で言った。
ゆっくりと、ハーマイオニーは足元のバッグを取り上げ、逆さかさまにして、中身をベッドの上に空あけた。粉こな々ごなになった木の切れ端はしが、小枝が、散らばり出た。ハリーのあの忠ちゅう実じつな、そしてついに敗北して散った、ニンバスの亡なき骸がらだった。