魔法を忘れ果て、自分がやせて背の低い十三歳さいであることも忘れ果て、相手のブラックが背の高い大人おとなの男であることも忘れ果てていた。できるだけ酷むごくブラックを傷きずつけてやりたい、その思い一ひと筋すじだった。返り討うちで自分がどんなに傷ついてもいい……。

ハリーがそんな愚おろかな行為こういに出たのがショックだったのか、ブラックは杖を上げ遅おくれた。ハリーは片手で、やせこけたブラックの手首をつかみ、捻ひねって杖つえ先さきを逸そらせ、もう一方の手の拳こぶしでブラックの横顔を殴なぐりつけた。二人は仰向あおむけに倒れ壁かべにぶつかった――。

ハーマイオニーが悲鳴ひめいをあげ、ロンは喚わめいていた。ブラックの持っていた三本の杖つえから火花が噴ふん射しゃし、危あやうくハリーの顔を逸それたが、目も眩くらむような閃せん光こうが走った。ハリーは、萎しなびた腕うでが激はげしくもがくのを指に感じたが、むしゃぶりついて放さなかった。もう一方の手で、ブラックの体のどこそこかまわず、ハリーは手当たりしだい殴り続けた。

しかし、ブラックは自由なほうの手でハリーの喉のどをとらえた。

「いいや」ブラックが食いしばった歯の間から言った。「もう待てない――」

指が絞しめつけてきた。ハリーは息が詰つまり、メガネがずり落ちかけた。

すると、どこからともなくハーマイオニーの足が蹴けりを入れるのが見えた。ブラックは痛さに呻うめきながらハリーを放した。ロンがブラックの杖を持った腕に体当たりし、カタカタという微かすかな音がハリーの耳に入った――。

もつれ合いをやっと振り解ほどいて立ち上がると、自分の杖が床に転ころがっているのが見えた。ハリーは杖に飛びついた。しかし――。

「ウワーッ！」クルックシャンクスが乱らん闘とうに加わった。前脚あし二本の爪つめが全部、ハリーの腕に深々と食い込んだ。ハリーが払いのけるすきに、クルックシャンクスが素早すばやくハリーの杖に飛びついた。

「取るな！」

ハリーは大声を出し、クルックシャンクスめがけて蹴りを入れた。猫はシャーッと鳴いて脇わきに跳びのいた。ハリーは杖を引っつかみ、振り向いた――。

「どいてくれ！」ハリーはロンとハーマイオニーに向かって叫んだ。

いい潮しお時どきだった。ハーマイオニーは唇くちびるから血を流し、息も絶たえ絶だえに、自分の杖とロンの杖を引ったくり、急いで脇へ避よけた。ロンは天てん蓋がいベッドに這はっていき、ばったり倒れて息を弾はずませていた。蒼そう白はくな顔がますます青ざめ、折おれた足を両手でしっかり握にぎっている。

ブラックは壁の下のほうで伸びていた。やせた胸を激しく波打たせ、ブラックは、ハリーが杖をまっすぐにブラックの心臓に向けてゆっくりと近づくのを見ていた。

「ハリー、わたしを殺すのか？」ブラックがつぶやいた。