ハリーはブラックとクルックシャンクスを見下ろし、杖つえをますます固く握にぎりしめた。猫も殺さなければならないとしたら? だから、どうだっていうんだ。猫はブラックとグルだった……ブラックを護まもって死ぬ覚悟かくごなら、勝手にすればいい……ブラックが猫を救いたいとでもいうなら、それはハリーの両親よりクルックシャンクスのほうが大切だと思っている証しょう拠こではないか……。
ハリーは杖をかまえた。やるならいまだ。いまこそ父さん母さんの敵かたきをとるときだ。ブラックを殺してやる。ブラックを殺さねば。いまがチャンスだ……。
何秒かがのろのろと過ぎた。そして、ハリーはまだ、杖をかまえたまま、凍こおりついたようにその場に立ちつくし、ブラックはハリーをじっと見つめ、クルックシャンクスはその胸に乗ったままだった。ロンの、あえぐような息いき遣づかいがベッドのあたりから聞こえてくる。ハーマイオニーはしんとしたままだ。
そして、新しい物音が聞こえてきた――。
床にこだまする、くぐもった足音だ。――誰だれかが階下で動いている。
「ここよ!」ハーマイオニーが急に叫さけんだ。「私たち、上にいるわ――シリウス・ブラックよ――早く!」
ブラックは驚いて身動きし、クルックシャンクスは振り落とされそうになった。ハリーは発ほっ作さ的てきに杖を握りしめた――やるんだ、いま! 頭の中で声がした――足音がバタバタと上がってくる。しかし、まだハリーは行動に出なかった。
赤い火花が飛び散り、ドアが勢いよく開いた。ハリーが振り向くと、蒼そう白はくな顔で、杖をかまえ、ルーピン先生が飛び込こんでくるところだった。ルーピン先生の目が、床に横たわるロンをとらえ、ドアのそばですくみ上がっているハーマイオニーに移り、杖つえでブラックを捕とらえて突っ立っているハリーを見、それからハリーの足下で血を流し、伸びているブラックその人へと移った。