「エクスペリアームス! 武器よ去れ!」ルーピンが叫さけんだ。
ハリーの杖がまたしても手を離はなれて飛び、ハーマイオニーが持っていた二本の杖も飛んだ。ルーピンは三本とも器用に捕つかまえ、ブラックを見み据すえたまま部屋の中に入ってきた。クルックシャンクスはブラックを護まもるように胸の上に横たわったままだった。
ハリーは急に虚うつろな気持になって立ちすくんだ。――とうとうやらなかった。弱気になったんだ。ブラックは吸魂鬼ディメンターに引き渡わたされる。
ルーピンが口を開いた。何か感情を押し殺して震ふるえているような、緊きん張ちょうした声だった。
「シリウス、あいつはどこだ?」
ハリーは一いっ瞬しゅんルーピンを見た。何を言っているのか、理解できなかった。誰のことを話しているのだろう? ハリーはまたブラックのほうを見た。
ブラックは無表情だった。数秒間、ブラックはまったく動かなかった。それから、ゆっくりと手を上げたが、その手はまっすぐにロンを指さしていた。いったい何だろうと訝いぶかりながら、ハリーはロンをちらりと見た。ロンも当とう惑わくしているようだ。
「しかし、それなら……」
ルーピンはブラックの心を読もうとするかのように、じっと見つめながらつぶやいた。
「……なぜいままで正体を現さなかったんだ? もしかしたら――」
ルーピンは急に目を見開いた。まるでブラックを通り越こして何かを見ているような、他の誰にも見えないものを見ているような目だ。
「――もしかしたら、あいつがそうだったのか……もしかしたら、君はあいつと入いれ替かわりになったのか……私に何も言わずに?」
落ち窪くぼんだ眼差まなざしでルーピンを見つめ続けながら、ブラックがゆっくりと頷うなずいた。
「ルーピン先生」ハリーが大声で割って入った。「いったい何が――?」
ハリーの問いが途と切ぎれた。目の前で起こったことが、ハリーの声を喉のど元もとで押し殺してしまったからだ。ルーピンがかまえた杖を下ろした。次の瞬しゅん間かん、ルーピンはブラックのほうに歩いていき、手を取って助け起こした。――クルックシャンクスが床に転ころがり落ちた。――そして、兄弟のようにブラックを抱きしめたのだ。