すると、ハリーの目の前で床の男の顔が変わりはじめた。傷きず痕あとは消え、肌はだが滑なめらかになり、削そがれた鼻もまともになって小さくなりはじめた。長いたてがみのような白はく髪はつ混まじりの髪は、頭皮の中に引き込まれていき、色が薄うす茶ちゃ色に変わった。突然ガタンと大きな音がして、木製の義ぎ足そくが落ち、正常な足がその場所に生はえ出てきた。次の瞬間しゅんかん、「魔法の目」が男の顔から飛び出し、その代わりに本物の目玉が現れた。「魔法の目」は床を転がっていき、くるくるとあらゆる方向に回り続けていた。
目の前に横たわる、少しそばかすのある、色白の、薄茶色の髪をした男を、ハリーは見た。ハリーはこの男が誰かを知っていた。ダンブルドアの「憂うれいの篩ふるい」で見たことがある。クラウチ氏に、無実を訴えながら、吸きゅう魂こん鬼きに法ほう廷ていから連れ出されていった……しかし、いまは目の周りに皺しわがあり、ずっと老けて見えた。
廊ろう下かを急ぎ足でやってくる足音がした。スネイプが足元にウィンキーを従えて戻ってきた。そのすぐ後ろにマクゴナガル先生がいた。
「クラウチ!」スネイプが、戸口で立ちすくんだ。「バーティ・クラウチ!」
「何てことでしょう」マクゴナガル先生も、立ちすくんで床の男を見つめた。
汚れ切って、よれよれのウィンキーが、スネイプの足元から覗のぞき込んだ。ウィンキーは口をあんぐり開け、金かな切きり声を上げた。
「バーティさま。バーティさま。こんなところで何を?」ウィンキーは飛び出して、その若い男の胸にすがった。「あなたたちはこの人を殺されました! この人を殺されました! ご主人さまの坊っちゃまを!」
「『失しっ神しん術じゅつ』にかかっているだけじゃ、ウィンキー」ダンブルドアが言った。「どいておくれ。セブルス、薬は持っておるか?」
スネイプがダンブルドアに、澄すみきった透とう明めいな液体の入った小さなガラス瓶びんを渡した。授業中に、ハリーに飲ませるとスネイプが脅おどしたベリタセラム、真しん実じつ薬やくだ。ダンブルドアは立ち上がり、床の男の上に屈かがみ込み、男の上半身を起こして「敵鏡てきかがみ」の下の壁かべに寄り掛かからせた。「敵鏡」にはダンブルドア、スネイプ、マクゴナガルの影がまだ映っていて、部屋にいる全員を睨にらんでいた。ウィンキーはひざまずいたまま、顔を手で覆おおって震ふるえている。ダンブルドアは男の口をこじ開け、薬を三さん滴てき流し込んだ。それから杖つえを男の胸に向け、「リナベイト! 蘇そ生せいせよ!」と唱となえた。
クラウチの息子は目を開けた。顔が緩ゆるみ、焦点の合わない目をしている。ダンブルドアは、顔と顔が同じ高さになるように男の前に膝ひざをついた。