ハリーはホグズミード行きの週末を楽しみにして過ごしたが、一つだけ気になることがあった。九月の初めに暖炉だんろの火の中に現れて以来、シリウスが石のように沈ちん黙もくしていることだ。来ないでほしいと言ったことが、シリウスを怒らせてしまったのはわかっていた――しかし、シリウスが慎しん重ちょうさをかなぐり捨すてて来てしまうのではないかと、ときどき心配になった。ホグズミードで、もしかしてドラコ・マルフォイの目の前で、黒い犬がハリーたちに向かって駆かけてきたらどうしよう
「まあな、シリウスが外に出て動き回りたいっていう気持はわかるよ」ロンとハーマイオニーに心配事を相談すると、ロンが言った。「だって、二年以上も逃亡とうぼう生活だったろ そりゃ、笑い事じゃなかったのはわかるよ。でも少なくとも自由だったじゃないか ところがいまは、あのぞっとするようなしもべ妖よう精せいと一いっ緒しょに閉じ込められっぱなしだ」
ハーマイオニーはロンを睨にらんだが、クリーチャーを侮ぶ辱じょくしたことはそれ以上追つい及きゅうしなかった。
「問題は」ハーマイオニーがハリーに言った。「ヴォ、ヴォルデモートが――ロン、そんな顔やめてったら――表に出てくるまでは、シリウスは隠れていなきゃいけないってことなのよ。つまり、ばかな魔法省が、ダンブルドアがシリウスについて語っていたことが真実だと受け入れないと、シリウスの無実に気づかないわけよ。あのおばかさんたちが、もう一度本当の『死し喰くい人びと』を逮捕たいほしはじめれば、シリウスが『死喰い人』じゃないってことが明白になるわ……だって、第一、シリウスには『闇やみの印しるし』がないんだし」
「のこのこ現れるほど、シリウスはばかじゃないと思うよ」ロンが元気づけるように言った。「そんなことしたら、ダンブルドアがカンカンだし、シリウスはダンブルドアの言うことが気に入らなくても、聞き入れるよ」
ハリーがまだ心配そうなので、ハーマイオニーが言った。
「あのね、ロンと二人で、まともな『闇やみの魔ま術じゅつに対する防ぼう衛えい術じゅつ』を学びたいだろうと思われる人に打診だしんして回ったら、興きょう味みを持った人が数人いたわ。その人たちに、ホグズミードで会いましょうって、伝えたわ」
「そう」ハリーはまだシリウスのことを考えながら曖昧あいまいな返事をした。
「心配しないことよ、ハリー」ハーマイオニーが静かに言った。「シリウスのことがなくったって、あなたはもう手一いっ杯ぱいなんだから」