「おはよう」二人の後ろで、夢見るようなぼーっとした声がした。ハリーが目を上げた。ルーナ・ラブグッドが、レイブンクローのテーブルからふらりと移動してきていた。大勢の生徒がルーナをじろじろ見ているし、何人かは指差してあけすけに笑っていた。どこでどう手に入れたのか、ルーナは実物大の獅し子しの頭の形をした帽子ぼうしを、ぐらぐらさせながら頭の上に載のっけていた。
「あたし、グリフィンドールを応援おうえんしてる」
ルーナは、わざわざ獅子頭がしらを指しながら言った。
「これ、よく見てて……」
ルーナが帽子に手を伸ばし、杖つえで軽く叩たたくと、獅子頭がカッと口を開け、本ほん物もの顔かお負まけに吠ほえた。周りのみんなが飛び上がった。
「いいでしょう」ルーナがうれしそうに言った。「スリザリンを表す蛇へびを、ほら、こいつに噛かみ砕くだかせたかったんだぁ。でも、時間がなかったの。まあいいか……がんばれぇ。ロナルド」
ルーナはふらりと行ってしまった。二人がまだルーナ・ショックに当てられているうちに、アンジェリーナが急いでやって来た。ケイティとアリシアが一いっ緒しょだったが、アリシアの眉毛まゆげは、ありがたいことに、マダム・ポンフリーの手で普通に戻っていた。
「準備ができたら」アンジェリーナが言った。「みんな競技場に直行だよ。コンディションを確認かくにんして、着き替がえをするんだ」
「すぐ行くよ」ハリーが約束した。「ロンがもう少し食べないと」
しかし、十分経たっても、ロンはこれ以上何も食べられないことがはっきりした。ハリーはロンを更こう衣い室しつに連れて行くのが一番いいと思った。テーブルから立ち上がると、ハーマイオニーも立ち上がり、ハリーの腕を引っ張って脇わきに連れてきた。
「スリザリンのバッジに書いてあることをロンに見せないでね」ハーマイオニーが切せっ羽ぱ詰つまった様子で囁ささやいた。
ハリーは目でどうして と聞いたが、ハーマイオニーが用心してと言いたげに首を振った。ちょうどロンが、よろよろと二人のほうにやって来るところだった。絶望ぜつぼうし、身の置きどころもない様子だ。
「がんばってね、ロン」ハーマイオニーは爪つま先さき立だちになって、ロンの頬ほおにキスした。「あなたもね、ハリー――」
出口に向かって大広間を戻りながら、ロンはわずかに意識を取り戻した様子だった。ハーマイオニーがさっきキスしたところを触さわり、不ふ思し議ぎそうな顔をした。たったいま何が起こったのか、よくわからない様子だ。心ここにあらずのロンは、周りで何が起こっているかに気がつかないが、ハリーはスリザリンのテーブルを通り過ぎるとき、王おう冠かん形がたのバッジが気になって、ちらりと見た。こんどは刻きざんである文字が読めた。
これがよい意味であるはずがないと、いやな予感よかんがして、ハリーはロンを急せかし、玄げん関かんホールを出口へと向かった。石段を下りると、氷のような外気だった。