ブラッジャーがハリーの腰にまともに当たった。ハリーは箒から前のめりに放ほうり出された。幸い、スニッチを追って深く急きゅう降こう下かしていたおかげで、地上から二メートルと離はなれていなかった。それでも、凍いてついた地面に背中を打ちつけられ、ハリーは一いっ瞬しゅん息が止まった。マダム・フーチのホイッスルが鋭するどく鳴るのが聞こえた。スタンドからの非難ひなん、怒ど鳴なり声ごえ、野や次じ、そしてドスンという音。それから、アンジェリーナの取り乱した声がした。
「大だい丈じょう夫ぶ」
「ああ、大丈夫」ハリーはアンジェリーナに手を取られ、引っ張り起こされながら、硬かたい表情で言った。
マダム・フーチが、ハリーの頭上にいるスリザリン選手の誰かのところに矢のように飛んで行った。ハリーの角度からは、誰なのかは見えなかった。
「あの悪党あくとう、クラッブだ」アンジェリーナは逆ぎゃく上じょうしていた。「君がスニッチを取ったのを見たとたん、あいつ、君を狙ねらってブラッジャーを強打したんだ。――だけど、ハリー、勝ったよ。勝ったのよ」
ハリーの背後で誰かがフンと鼻を鳴らした。スニッチをしっかり握にぎり締しめたまま、ハリーは振り返った。ドラコ・マルフォイがそばに着地していた。怒りで血の気のない顔だったが、それでもまだ嘲あざける余裕よゆうがあった。
「ウィーズリーの首を救ったわけだねぇ」ハリーに向かっての言葉だった。「あんな最低のキーパーは見たことがない……だけど、なにしろ豚ぶた小ご屋や生まれだものなあ……僕の歌か詞しは気に入ったかい、ポッター」
ハリーは答えなかった。マルフォイに背を向け、降おりてくるチームの選手を迎むかえた。一人、また一人と、叫さけんだり、勝ち誇ほこって拳こぶしを突つき上げたりしながら降りてきた。ロンだけが、ゴールポストのそばで箒を降り、たった独ひとりで、のろのろと更こう衣い室しつに向かう様子だ。
「もう少し歌詞を増やしたかったんだけどねえ」ケイティとアリシアがハリーを抱だき締しめたとき、マルフォイが追おい討うちをかけた。「韻いんを踏ふませる言葉が見つからなかったんだ。『でぶっちょ』と『おかめ』に――あいつの母親のことを歌いたかったんだけどねえ――」
「負け犬の遠吠とおぼえよ」アンジェリーナが、軽蔑けいべつし切った目でマルフォイを見た。
「――『役立たずのひょっとこ』っていうのも、うまく韻を踏まなかったんだ――ほら、父親のことだけどね――」
フレッドとジョージが、マルフォイの言っていることに気がついた。ハリーと握手あくしゅをしている最さい中ちゅう、二人の体が強張こわばり、さっとマルフォイを見た。
「放ほっときなさい」アンジェリーナがフレッドの腕を押さえ、すかさず言った。「フレッド、放っておくのよ。勝手に喚わめけばいいのよ。負けて悔くやしいだけなんだから。あの思い上がりのチビ――」
「――だけど、君はウィーズリー一家が好きなんだ。そうだろう ポッター」マルフォイがせせら笑った。「休きゅう暇かをあの家で過ごしたりするんだろう よく豚小屋に我慢がまんできるねぇ。だけど、まあ、君はマグルなんかに育てられたから、ウィーズリー小屋の悪あく臭しゅうもオーケーってわけだ――」