ハリーはジョージをつかんで押さえた。一方いっぽうで、あからさまに嘲笑あざわらうマルフォイに飛びかかろうとするフレッドを抑おさえるのに、アンジェリーナ、アリシア、ケイティの三人がかりだった。ハリーはマダム・フーチを目で探したが、ルール違反いはんのブラッジャー攻撃こうげきのことで、まだクラッブを叱しかりつけていた。
「それとも、何かい」マルフォイが後退あとずさりしながら意地の悪い目つきをした。「ポッター、君の母親の家の臭いを思い出すのかな。ウィーズリーの豚ぶた小ご屋やが、思い出させて――」
ハリーはジョージを放はなしたことに気がつかなかった。ただ、その直後に、ジョージと二人でマルフォイめがけて疾走しっそうしたことだけは憶おぼえている。教師全員が見ていることもすっかり忘れていた。ただマルフォイをできるだけ痛い目に遭あわせてやりたい、それ以外何も考えられなかった。杖つえを引き出すのももどかしく、ハリーはスニッチを握にぎったままの拳こぶしをぐっと後ろに引き、思いっ切りマルフォイの腹に打ち込んだ――。
「ハリー ハリー ジョージ やめて」
女子生徒の悲鳴ひめいが聞こえた。マルフォイの叫さけび、ジョージが罵ののしる声、ホイッスルが鳴り、ハリーの周囲の観かん衆しゅうが大声を上げている。かまうものか。近くの誰かが、「インペディメンタ 妨害ぼうがいせよ」と叫ぶまで、そして呪じゅ文もんの力で仰向あおむけに倒されるまで、ハリーは殴なぐるのをやめなかった。マルフォイの体のどこそこかまわず、当たるところを全部殴った。
「何のまねです」
ハリーが飛び起きると、マダム・フーチが叫んだ。「妨害の呪のろい」でハリーを吹き飛ばしたのはフーチ先生らしい。片手かたてにホイッスル、もう片方の手に杖を持っていた。箒ほうきは少し離はなれたところに乗り捨すててあった。マルフォイが体を丸めて地上に転がり、唸うなったり、ヒンヒン泣いたりしていた。鼻血が出ている。ジョージは唇くちびるが腫はれ上がっていた。フレッドは三人のチェイサーにがっちり抑えられたままだった。クラッブが背後でケタケタ笑っている。
「こんな不ふ始し末まつは初めてです――城に戻りなさい。二人ともです。まっすぐ寮りょう監かんの部屋に行きなさい さあ いますぐ」
ハリーとジョージは息を荒あららげたまま、互いに一言も交かわさず競技場を出た。観衆の野や次じも叫びも、だんだん遠退とおのき、玄げん関かんホールに着くころには、何も聞こえなくなっていた。ただ、二人の足音だけが聞こえた。ハリーは右手の中で何かがまだもがいているのに気づいた。握り拳の指ゆび関かん節せつが、マルフォイの顎あごを殴ってすり剥むけていた。手を見ると、スニッチの銀の翼つばさが、指の間から突つき出し、逃のがれようと羽撃はばたいているのが見えた。