マダム・マルキンは一いっ瞬しゅんおろおろしていたが、何も起こらないほうに賭かけて、何も起こっていないかのように振舞ふるまおうと決めたようだった。マダム・マルキンは、まだハリーを睨にらみつけているマルフォイのほうに身を屈かがめた。
「この左ひだり袖そではもう少し短くしたほうがいいわね。ちょっとそのように――」
「痛い!」
マルフォイは大声を上げて、マダム・マルキンの手を叩たたいた。
「気をつけてピンを打つんだ! 母上――もうこんな物はほしくありません――」
マルフォイはローブを引っぱって頭から脱ぎ、マダム・マルキンの足下あしもとに叩たたきつけた。
「そのとおりね、ドラコ」ナルシッサは、ハーマイオニーを侮ぶ蔑べつ的てきな目で見た。
「この店の客がどんなクズかわかった以上……トウィルフィット・アンド・タッティングの店のほうがいいでしょう」
そう言うなり、二人は足音も荒く店を出ていった。マルフォイは出ていきざま、ロンにわざと思いきり強くぶつかった。
「ああ、まったく!」
マダム・マルキンは落ちたローブをさっと拾い上げ、杖つえで電気でんき掃そう除じ機きのように服をなぞって埃ほこりを取った。
マダム・マルキンは、ロンとハリーの新しいローブの寸すん法ぽう直しをしている間、ずっと気もそぞろで、ハーマイオニーに魔女用のローブではなく男物のローブを売ろうとしたりした。最後にお辞じ儀ぎをして三人を店から送り出したときは、やっと出ていってくれてうれしいという雰囲ふんい気きだった。
「全部買ったか?」
三人が自分のそばに戻もどってきたのを見て、ハグリッドが朗ほがらかに聞いた。
「まあね」ハリーが言った。「マルフォイ親子を見かけた?」
「ああ」ハグリッドは暢気のんきに言った。「だけんど、あいつら、まさかダイアゴン横よこ丁ちょうのどまん中で面倒めんどうを起こしたりはせんだろう。ハリー、やつらのことは気にすんな」
ハリー、ロン、ハーマイオニーは顔を見合わせた。しかし、ハグリッドの安穏あんのんとした考えを正すことができないうちに、ウィーズリーおじさん、おばさんとジニーが、それぞれ重そうな本の包みを提さげてやって来た。