「いま台所に行かないほうがいいわよ」ジニーが警告けいこくした。
「ヌラーがべっとりだから」
「滑すべらないように気をつけるよ」ハリーが微笑ほほえんだ。
ハリーが台所に入ると、まさにそのとおり、フラーがテーブルのそばに腰掛こしかけ、ビルとの結婚式の計画を止めどなくしゃべっていた。ウィーズリーおばさんは、勝手に皮が剥むけるメキャベツの山を、不ふ機き嫌げんな顔で監視かんししていた。
「……ビルとわたし、あはな嫁よめの付き添いをふーたりだけにしようと、ほとんど決めましたね。ジニーとガブリエール、一いっ緒しょにとーてもかわいーいと思いまーす。わたし、ふーたりに、淡いゴールドの衣い装しょう着せよーうと考えていますね――もちろんピーンクは、ジニーの髪かみと合わなくて、いひどいでーす――」
「ああ、ハリー!」
ウィーズリーおばさんがフラーの一人舞台を遮さえぎり、大声で呼びかけた。
「よかった。明日のホグワーツ行きの安全対たい策さくについて、説明しておきたかったの。魔法省の車がまた来ます。駅には闇やみ祓ばらいたちが待っているはず――」
「トンクスは駅に来ますか?」
ハリーは、クィディッチの洗濯物を渡しながら聞いた。
「いいえ、来ないと思いますよ。アーサーの口ぶりでは、どこかほかに配置されているようね」
「あのいひと、このごろぜーんぜん身みなりをかまいません。あのトンクス」
フラーは茶さじの裏うらに映うつるハッとするほど美しい自分の姿を確かめながら、想おもいに耽ふけるように言った。
「大きな間違いでーす。わたしの考えでは――」
「ええ、それはどうも」
ウィーズリーおばさんがまたしてもフラーを遮さえぎって、ぴりりと言った。
「ハリー、もう行きなさい。できれば今晩中にトランクを準備してほしいわ。いつもみたいに出がけに慌あわてることがないようにね」
そして次の朝、事実、いつもより出発の流れがよかった。魔法省の車が「隠かくれ穴あな」の前に滑すべるように入ってきたときには、みんなそこに待機たいきしていた。トランクは詰め終わり、ハーマイオニーの猫、クルックシャンクスは旅行用のバスケットに安全に閉じ込められ、ヘドウィグとロンのふくろうのピッグウィジョン、それにジニーの新しい紫のピグミーパフ、アーノルドは籠かごに収まっていた。
「オールヴォワ、ハリー」
フラーがお別れのキスをしながら、ハスキーな声で言った。ロンは期き待たい顔がおで進み出たが、ジニーの突き出した足に引っかかって転倒し、フラーの足下あしもとの地べたにぶざまに大の字になった。かんかんに怒って、まっ赤な顔に泥をくっつけたまま、ロンはさよならも言わずにさっさと車に乗り込んだ。