ルーピンの顔から血の気が失うせた。厨房ちゅうぼうの温度が十度も下がってしまったかのようだった。ロンは、まるで厨房を記憶きおくせよと命令されたかのようにじっと見回したし、ハーマイオニーの目は、ハリーとルーピンの間を目まぐるしく往いったり来きたりした。
「君にはわかっていない」しばらくして、やっとルーピンが口を開いた。
「それじゃ、わからせてください」ハリーが言った。
ルーピンは、ゴクリと生なま唾つばを飲んだ。
「私は――私はトンクスと結婚するという、重大な過あやまちを犯おかした。自分の良識に逆らう結婚だった。それ以来、ずっと後こう悔かいしてきた」
「そうですか」ハリーが言った。「それじゃ、トンクスも子どもも棄すてて、僕たちと一緒いっしょに逃とう亡ぼうするというわけですね」
ルーピンはぱっと立ち上がり、椅い子すが後ろにひっくり返った。ハリーをにらみつける目のあまりの激はげしさに、ハリーはルーピンの顔に初めて狼おおかみの影を見た。
「わからないのか 妻にも、まだ生まれていない子どもにも、私が何をしてしまったか トンクスと結婚すべきではなかった。私はあれを、世間ののけ者にしてしまった」
ルーピンは、倒した椅子を蹴けりつけた。
「君は、私が騎き士し団だんの中にいるか、ホグワーツでダンブルドアの庇ひ護ごの下にあった姿しか見てはいない 魔法界の大多数の者が、私のような生き物をどんな目で見るか、君は知らないんだ 私が背負っている病がわかると、連中はほとんど口もきいてくれない 私が何をしてしまったのか、わからないのか トンクスの家族でさえ、私たちの結婚には嫌けん悪お感かんを持ったんだ。一人娘を狼おおかみ人にん間げんに嫁とつがせたい親がどこにいる それに子どもは――子どもは――」
ルーピンは自分の髪かみを両手で鷲わしづかみにし、発狂はっきょうせんばかりだった。
「私の仲間は、普通は子どもを作らない 私と同じになる。そうに違いない――それを知りながら、罪もない子どもにこんな私の状態を受け継つがせる危険を冒おかした自分が許せない もしも奇跡きせきが起こって、子どもが私のようにならないとしたら、その子には父親がいないほうがいい。自分が恥はじに思うような父親は、いないほうが百倍もいい」
「リーマス」
ハーマイオニーが目に涙を浮かべて、小声で言った。
「そんなことを言わないで――あなたのことを恥に思う子どもなんて、いるはずがないでしょう」
「へえ、ハーマイオニー、そうかな」ハリーが言った。「僕なら、とても恥はずかしいと思うだろうな」
ハリーは、自分の怒りがどこから来ているかわからなかったが、その怒りがハリーを立ち上がらせた。ルーピンは、ハリーに殴なぐられたような顔をしていた。