「何だよぅ」
がっちりつかんでいるロンの手から逃れようと、身をよじりながらマンダンガスが叫さけんだ。
「俺おれが何したって言うんだ 屋敷やしきしもべ野郎をけしかけやがってよぅ。いったい何ふざけてやがんだ。俺が何したって言うんだ。放はなせ、放しやがれ、さもねえと――」
「脅おどしをかけられるような立場じゃないだろう」
ハリーは新聞を投げ捨て、ほんの数歩で厨房ちゅうぼうを横切りマンダンガスの傍かたわらに膝ひざをついた。マンダンガスはジタバタするのをやめ、怯おびえた顔になっていた。ロンは息を弾はずませながら立ち上がり、ハリーが慎重しんちょうにマンダンガスの鼻に杖つえを突きつけるのを見ていた。マンダンガスは、饐すえた汗とタバコの臭においをプンプンさせて、髪かみはもつれ、ローブは薄うす汚よごれていた。
「ご主人様、クリーチャーは盗ぬすっ人とを連れてくるのが遅れたことをお詫わびいたします」
しもべ妖精ようせいがしゃがれ声で言った。
「フレッチャーは捕まらないようにする方法を知っていて、隠れ家や仲間をたくさん持っています。それでもクリーチャーは、とうとう盗っ人を追いつめました」
「クリーチャー、君はほんとによくやってくれたよ」
ハリーがそう言うと、しもべ妖精は深々と頭を下げた。
「さあ、おまえに少し聞きたいことがあるんだ」
ハリーが言うと、マンダンガスはすぐさまわめき出した。
「うろたえっちまったのよぅ、いいか 俺おれはよぅ、一いっ緒しょに行きてえなんて、いっぺんも言ってねぇ。へん、悪く思うなよ。けどなぁ、おめえさんのためにすすんで死ぬなんて、一度も言ってねぇ。そんで、あの『例のあの人』野郎が、俺めがけて飛んできやがってよぅ。誰だって逃げらぁね。俺はよぅ、はじめっからやりたくねぇって――」
「言っておきますけど、ほかには誰も『姿すがたくらまし』した人はいないわ」
ハーマイオニーが言った。
「へん、おめえさんたちは、そりゃご立派な英雄さんたちでござんしょうよ。だけどよぅ、俺はいっぺんだって、てめえが死んでもいいなんて、かっこつけたこたぁねえぜ」
「おまえがなぜマッド‐アイを見捨てて逃げたかなんて、僕たちには興味はない」
ハリーはマンダンガスの血走って垂れ下がった目に、さらに杖を近づけた。
「おまえが信しん頼らいできないクズだってことは、僕たちにはとっくにわかっていた」
「ふん、そんなら、なんで俺はしもべ妖精に狩かり出されなきゃなんねぇ それとも、また例のゴブレットのことか もう一っつも残ってねえよ。そんでなきゃ、おまえさんにやるけどよぅ――」
「ゴブレットのことでもない。もっとも、なかなかいい線いってるけどね」ハリーが言った。「黙だまって聞け」
何かすることがあるのはいい気分だった。ほんの少しでも、誰かに真実を話せと言えるのはいい気分だった。鼻柱はなばしらにくっつくほど近くに突きつけられたハリーの杖から、目を離はなすまいとしてマンダンガスは寄り目になっていた。