「おまえがこの屋敷やしきから貴き重ちょう品ひんをさらって行ったとき――」
ハリーは話しはじめたが、またしてもマンダンガスに遮さえぎられた。
「シリウスはよぅ、気にしてなかったぜ、ガラクタのことなんぞ――」
パタパタという足音がして、銅どう製せいの何かがピカリと光ったかと思うと、グワーンという響ひびきと痛そうな悲鳴ひめいが聞こえた。クリーチャーがマンダンガスに駆かけ寄って、ソース鍋なべで頭を殴なぐったのだ。
「こいつを何とかしろ、やめさせろ。檻おりに入れとけ」
クリーチャーがもう一度分厚ぶあつい鍋を振ふり上げたので、マンダンガスは頭を抱えて悲鳴を上げた。
「クリーチャー、よせ」ハリーが叫さけんだ。
クリーチャーの細腕が、高々と持ち上げた鍋の重さでわなわな震ふるえていた。
「ご主人様、もう一度だけよろしいでしょうか ついでですから」
ロンが声を上げて笑った。
「クリーチャー、気を失うとまずいんだよ。だけど、こいつを説せっ得とくする必要が出てきたら、君にその仕切り役を果たしてもらうよ」
「ありがとうございます、ご主人様」
クリーチャーはお辞じ儀ぎをして、少し後ろに下がったが、大きな薄うすい色の眼めで、憎にく々にくしげにマンダンガスをにらみつけたままだった。
「おまえがこの屋敷やしきから、手当たり次第に貴き重ちょう品ひんを持ち出したとき」ハリーはもう一度話しはじめた。「厨房ちゅうぼうの納戸なんどからもひと抱え持ち去った。その中にロケットがあった」
ハリーは、突然口の中がからからになった。ロンとハーマイオニーも緊張きんちょうし、興こう奮ふんしているのがわかった。
「それをどうした」
「なんでだ」マンダンガスが聞いた。「値打ちもんか」
「まだ持っているんだわ」ハーマイオニーが叫んだ。
「いや、持ってないね」ロンが鋭するどく見抜いた。「もっと高く要求したほうがよかったんじゃないかって、そう思ってるんだ」
「もっと高く」
マンダンガスが言った。
「そいつぁどえらく簡単にできただろうぜ……忌いま々いましいが、ただでくれてやったんでよぅ。どうしようもねぇ」
「どういうことだ」
「俺おれはダイアゴン横丁よこちょうで売ってたのよ。そしたらあの女あまが来てよぅ、魔法製品を売買する許可を持ってるか、と来やがった。まったく余計よけいなお世話だぜ。罰ばっ金きんを取るとぬかしやがった。けどロケットに目を止めてよぅ、それをよこせば、こんどだけは見逃してやるから幸運と思え、とおいでなすった」
「その魔女、誰だい」ハリーが聞いた。
「知らねえよ。魔ま法ほう省しょうのババアだ」
マンダンガスは、眉間みけんにしわを寄せて一瞬いっしゅん考えた。
「小せえ女あまだ。頭のてっぺんにリボンだ」
マンダンガスは、顔をしかめてもう一言言った。
「ガマガエルみてえな顔だったな」
ハリーは杖つえを取り落とした。それがマンダンガスの鼻に当たって赤い火花が眉毛まゆげに飛び、眉に火が点ついた。
「アグアメンティ 水よ」
ハーマイオニーの叫さけびとともに杖から水が噴ふき出し、アワアワ言いながら咽むせ込んでいるマンダンガスを包み込んだ。
顔を上げたハリーは、自分が受けたと同じ衝撃しょうげきが、ロンとハーマイオニーの顔にも表れているのを見た。右手の甲こうの傷きず痕あとが、再び疼うずくような気がした。