厨房ちゅうぼうは見違えるようになっていた。何もかもが磨みがき上げられ、鍋なべやフライパンは赤しゃく銅どう色いろに輝かがやき、木のテーブルはぴかぴかだ。ゴブレットや皿はもう夕食用に並べられて、楽しげな暖炉だんろの炎をチラチラと映うつしていたし、暖炉にかけられた鍋はグツグツ煮にえていた。しかし厨房のそんな変化も、しもべ妖よう精せいの変わりように比べれば何でもない。ハリーのほうにいそいそと駆かけ寄ったしもべ妖精は、真っ白なタオルを着て、耳の毛は清せい潔けつで綿わたのようにふわふわしている。レギュラスのロケットが、その痩やせた胸でポンポン飛び跳はねていた。
「ハリー様、お靴くつをお脱ぬぎください。それから夕食の前に手を洗ってください」
クリーチャーはしゃがれ声でそう言うと、透とう明めいマントを預かって前まえ屈かがみに壁かべの洋服掛けまで歩き、そこに掛けた。壁には流行後おくれのローブが何着か、きれいに洗って掛けてある。
「何が起こったんだ」
ロンが心配そうに聞いた。ロンはハーマイオニーと二人で、走り書きのメモや手書きの地図の束たばを長テーブルの一角に散らかして調べ物の最中だったが、二人とも気を昂たかぶらせて近づいてくるハリーに目を向けた。ハリーは散らばった羊よう皮ひ紙しの上に新聞をぱっと広げた。
見知った鉤かぎ鼻ばなと黒い髪かみの男が大写しになって三人を見上げ、にらんでいる。その上に大見出しがあった。
セブルス・スネイプ、ホグワーツ校長に確定
「まさか」ロンもハーマイオニーも大声を出した。
ハーマイオニーの手がいちばん早かった。新聞をさっと取り上げ、その記事を読み上げはじめた。
「歴史あるホグワーツ魔ま法ほう魔ま術じゅつ学校がっこうにおける一連の人事じんじ異動いどうで、最重要職の一つである校長が本日任にん命めいされた。新校長、セブルス・スネイプ氏は、長年『魔ま法ほう薬学やくがく』の教師きょうしとして勤つとめた人物である。前任者の辞任じにんに伴い『マグル学』は、アレクト・カロー女史じょしがその後任となり、空席となっていた『闇やみの魔術に対する防ぼう衛えい術じゅつ』には、カロー女史の兄であるアミカス・カロー氏が就任しゅうにんする」
「『わが校に於おける最善の魔法の伝でん統とうと価値を高こう揚ようする機会を、我わが輩はいは歓かん迎げいする――』ええ、そうでしょうよ。殺人とか人の耳を切り落とすとかね スネイプが、校長 スネイプがダンブルドアの書しょ斎さいに入るなんて――マーリンの猿さる股また」
ハーマイオニーの甲かん高だかい声に、ハリーもロンも飛び上がった。ハーマイオニーはぱっと立ち上がり、「すぐ戻るわ」と叫さけびながら矢のように部屋から飛び出した。