ハーマイオニーは持ってきた大きな額がく入りの絵を床に下ろして、厨房ちゅうぼうの食しょ器っき棚だなから小さなビーズのバッグを取り、バッグの口から額を中に押し込みはじめた。どう見てもそんな小さなバッグに納まるはずがないのに、ほかのいろいろなものと同様、額はあっという間にバッグの広大な懐ふところへと消えていった。
「フィニアス・ナイジェラスよ」
ハーマイオニーは、いつものようにガランゴロンという音を響ひびかせながらバッグをテーブルに投げ出して説明した。
「えっ」
ロンは聞き返したが、ハリーにはわかった。フィニアス・ナイジェラス・ブラックは、グリモールド・プレイスと校長室とに掛かかっている二つの肖しょう像ぞう画がの間を往いき来きできる。いまごろスネイプは、あの塔とうの上階の円形の部屋に勝かち誇ほこって座っているに違いない。ダンブルドアの集めた繊せん細さいな銀の計器類や石の「憂うれいの篩ふるい」、「組分け帽子ぼうし」、それに、どこかに移されていなければ「グリフィンドールの剣つるぎ」などを我が物顔に所有して。
「スネイプは、フィニアス・ナイジェラスをこの屋敷やしきに送り込んで、偵てい察さつさせることができるわ」
ハーマイオニーは自分の椅い子すに戻りながらロンに解説した。
「でも、いまそんなことさせてごらんなさい。フィニアス・ナイジェラスには私のハンドバッグの中しか見えないわ」
「あったまいい」ロンは感心した顔をした。
「ありがとう」
ハーマイオニーはスープ皿を引き寄せながらにっこりした。
「それで、ハリー、今日はほかにどんなことがあったの」
「何にも」ハリーが言った。「七時間も魔ま法ほう省しょうの入口を見張った。あの女は現れない。でも、ロン、君のパパを見たよ。元気そうだった」
ロンは、この報しらせがうれしいというようにうなずいた。三人とも、魔法省に出入りするウィーズリー氏に話しかけるのは危険すぎる、という意見で一致いっちしていた。必ず、魔法省のほかの職員に囲まれているからだ。しかし、ときどきこうして姿を見かけると、たとえウィーズリー氏が心配そうな、緊張きんちょうした顔をしていても、やはりほっとさせられた。
「パパがいつも言ってたけど、魔法省の役人は、たいてい『煙えん突とつ飛行ひこうネットワーク』で出勤しゅっきんするらしい」ロンが言った。「だからきっと、アンブリッジを見かけないんだ。絶対歩いたりしないさ。自分が重要人物だと思ってるもんな」
「それじゃ、あのおかしな年寄りの魔女と、濃のう紺こんのローブを着た小さい魔法使いはどうだったの」ハーマイオニーが聞いた。
「ああ、うん、あの魔法ビル管理部のやつか」ロンが言った。
「魔法ビル管理部で働いているってことが、どうしてわかるの」ハーマイオニーのスープスプーンが空中で停止ていしした。
「パパが言ってた。魔法ビル管理部では、みんな濃のう紺こんのローブを着てるって」
「そんなこと、一度も教えてくれなかったじゃない」