「『マーリンの猿股』」ロンは、さもおもしろそうににやっとした。「きっと頭にきたんだな」ロンは新聞を引き寄せて、スネイプの記事を流し読みした。
「ほかの先生たちはこんなの、我慢がまんできないぜ。マクゴナガル、フリットウィック、スプラウトなんか、ほんとのことを知ってるしな。ダンブルドアがどんなふうに死んだかって。スネイプ校長なんて、受け入れないぜ。それに、カロー兄妹きょうだいって、誰だ」
「死し喰くい人びとだよ」ハリーが言った。「中のほうに写真が出てる。スネイプがダンブルドアを殺したとき、塔とうの上にいた連中だ。つまり、全部お友達さ。それに――」
ハリーは椅い子すを引き寄せながら苦にが々にがしく言った。
「ほかの先生は学校に残るしかないと思う。スネイプの後ろに魔ま法ほう省しょうとヴォルデモートがいるとなれば、留まって教えるか、アズカバンで数年ゆっくり過ごすかの選せん択たくだろうし――それさえも、運がよけりゃの話だ。きっと留まって生徒たちを守ろうとすると思うよ」
大きなスープ鍋なべを持ったクリーチャーが、まめまめしくテーブルにやって来て、口くち笛ぶえを吹きながら清せい潔けつなスープ皿にお玉でスープを分け入れた。
「ありがとう、クリーチャー」
ハリーは礼を言いながら、スネイプの顔を見なくてすむように「予よ言げん者しゃ新しん聞ぶん」をひっくり返した。
「まあ、少なくとも、これでスネイプの正確な居場所がわかったわけだ」
ハリーはスープをすくって飲みはじめた。クリーチャーは、レギュラスのロケットを授与じゅよされて以来、驚異きょうい的てきに料理の腕が上がった。今日のフレンチオニオンスープなど、ハリーがいままでに味わった中でも最高だった。
「死喰い人がまだたくさん、ここを見み張はっている」食事をしながらハリーがロンに言った。「いつもより多いんだ。まるで、僕たちが学校のトランクを引っ張ってここから堂々と出かけ、ホグワーツ特急に向かうとでも思ってるみたいだ」
ロンは、ちらりと腕時計を見た。
「僕もそのことを一日中考えていたんだ。列車はもう六時間も前に出発した。乗ってないなんて、何だか妙みょうちくりんな気持がしないか」
かつてロンと一いっ緒しょに空から追いかけた紅くれないの蒸気じょうき機き関かん車しゃが、ハリーの目に浮かんだ。野原や丘きゅう陵地りょうちの間を微かすかに光りながら、紅の蛇へびのようにくねくねと走っていた。いまごろきっとジニーやネビル、ルーナが一緒に座って、たぶんハリーやロン、ハーマイオニーはどこにいるのだろうと心配したり、そうでなければ、どうやったらスネイプ新しん体たい制せいを弱体化できるかを議論していることだろう。
「たったいま、ここに戻ってきたのを、連中に見られるところだった」ハリーが言った。「階段のいちばん上にうまく着地できなくて、それに透とう明めいマントが滑すべり落ちたんだ」
「僕なんかしょっちゅうさ。あ、戻ってきた」
ロンは椅い子すに掛かけたまま首を伸ばして、ハーマイオニーが厨房ちゅうぼうに戻ってくるのを見た。
「それにしても、マーリンの特大猿さる股また そりゃ何だい」
「これを思い出したの」ハーマイオニーは息を切らしながら言った。