ハーマイオニーはスプーンを取り落とし、ハリーが帰ってきたときにロンと二人で調べていたメモや地図の束たばを引き寄せた。
「この中には濃紺のローブのことなんか、何にもないわ。何一つも」
ハーマイオニーは、大あわてであちこちのページをめくりながら言った。
「うーん、そんなこと重要か」
「ロン、どんなことだって重要よ 魔ま法ほう省しょうが間違いなく目を光らせているっていうときに潜入せんにゅうして、しかもバレないようにするには、どんな細かいことでも重要なの もう何なん遍べんも繰くり返して確認し合ったはずよ。あなたが面倒くさがって話さないんだったら、何度も偵てい察さつに出かける意味がないじゃない――」
「あのさあ、ハーマイオニー、僕、小さなことを一つ忘れただけで――」
「でも、ロン、わかっているんでしょうね。現在私たちにとって、世界中でいちばん危険な場所はどこかといえば、それは魔法――」
「明日、決行すべきだと思うな」ハリーが言った。
ハーマイオニーは口をあんぐり開けたまま突然動かなくなり、ロンはスープで咽むせた。
「あした」ハーマイオニーが繰り返した。「本気じゃないでしょうね、ハリー」
「本気だ」ハリーが言った。「あと一か月、魔法省の入口あたりをうろうろしたところで、いま以上に準備じゅんびが整うとは思えない。先延さきのばしにすればするだけ、ロケットは遠ざかるかもしれない。アンブリッジがもう捨ててしまった可能性だってある。なにしろ開かないからね」
「ただし」ロンが言った。「開け方を見つけていたら別だ。それならあいつはいま、取とっ憑つかれている」
「あの女にとっては大した変化じゃないさ。はじめっから邪じゃ悪あくなんだから」
ハリーは肩をすくめた。
ハーマイオニーは、唇くちびるを噛かんでじっと考え込んでいた。
「大事なことはもう全部わかった」
ハリーはハーマイオニーに向かって話し続けた。
「魔法省への出入りに、『姿すがた現わし』が使われていないことはわかっている。いまではトップの高官だけが自宅と『煙えん突とつ飛行ひこうネットワーク』を結ぶのを許されていることもわかっている。『無む言ごん者しゃ』の二人がそのことで不平を言い合っているのを、ロンが聞いてるから。それに、アンブリッジの執しつ務む室しつが、だいたいどのへんにあるかもわかっている。ひげの魔法使いが仲間に話しているのを君が聞いているからね――」