「ハリー ハリー」
ハリーは目を開けた。床に座り込んでいた。ハーマイオニーが、またドアを激はげしく叩たたいている。
「ハリー、開けて」
ハリーにはわかっていた。叫さけんだに違いない。立ち上がって閂かんぬきを外はずしたとたん、ハーマイオニーがつんのめるように入ってきた。危あやうく踏ふみとどまったハーマイオニーは、探るように周りを見回した。ロンはそのすぐ後ろで、ピリピリしながら冷たいバスルームのあちこちに杖つえを向けていた。
「何をしていたの」ハーマイオニーが厳きびしい声で聞いた。
「何をしていたと思う」ハリーは虚きょ勢せいを張ったが、見みえ透すいていた。
「すっさまじい声でわめいてたんだぜ」ロンが言った。
「ああ、そう……きっと転うたた寝ねしたかなんか――」
「ハリー、私たちはばかじゃないわ。ごまかさないで」ハーマイオニーが深く息を吸い込んでから言った。「厨房ちゅうぼうであなたの傷きず痕あとが痛んだことぐらい、わかってるわよ。それにあなた、真っ青よ」
ハリーは、バスタブの端はしに腰掛こしかけた。
「わかったよ。たったいまヴォルデモートが女性を殺した。いまごろはもう、家族全員を殺してしまっただろう。そんな必要はなかったのに。セドリックの二にの舞まいだ。あの人たちはただその場にいただけなのに……」
「ハリー、もうこんなことが起こってはならないはずよ」
ハーマイオニーの叫ぶ声がバスルームに響ひびき渡った。
「ダンブルドアは、あなたに『閉へい心しん術じゅつ』を使わせたかったのよ こういう絆きずなは危険だって考えたから――ハリー、ヴォルデモートはそのつながりを利用することができるわ あの人が殺したり苦しめたりするのを見て、何かいいことでもあるの いったい何の役に立つと言うの」
「それは、やつが何をしているかが、僕にはわかるということだ」ハリーが言った。
「それじゃ、あの人を締しめ出す努力をするつもりはないのね」
「ハーマイオニー、できないんだ。僕は『閉心術』が下へ手たなんだよ。どうしてもコツがつかめないんだ」
「真剣にやったことがないのよ」ハーマイオニーが熱くなった。「ハリー、私には理解できない――あなたは何を好きこのんで、こんな特とく殊しゅなつながりと言うか関係と言うか、何と言うか――何でもいいけど――」
「好きこのんでだって」ハリーは静かに言った。「君なら、こんなことが好きだって言うのか」
「私――いいえ――ハリー、ごめんなさい。そんなつもりじゃ――」
「僕はいやだよ。あいつが僕の中に入り込めるなんて、あいつがいちばん恐ろしい状態のときに、その姿を見なきゃならないなんて、真まっ平ぴらだ。だけど僕は、それを利用してやる」