その晩は、三人とも遅くまで起きていた。何時間もかけて計画を何度も復習し、互いに一いち言ごん一いっ句く違たがえずに空で言えるまでになった。シリウスの部屋で寝起きするようになっていたハリーは、ベッドに横になり、父親、シリウス、ルーピン、ペティグリューの写っている古い写真に杖つえ灯あかりを向けながら、さらに十分間、一人で計画をブツブツ繰くり返した。しかし、杖灯りを消したあとに頭に浮かんだのは、ポリジュース薬でも、ゲーゲー・トローチでも魔法ビル管理部の濃のう紺こんのローブでもなく、グレゴロビッチのことだった。ヴォルデモートのこれほど執念しゅうねん深い追跡を受けて、この杖作りはあとどのくらい隠れ続けられるのだろうか。
夜明けが、理り不ふ尽じんな速さで真夜中に追いついた。
「何てひどい顔してるんだ」
ハリーを起こしに部屋に入ってきたロンの、朝の挨あい拶さつだった。
「すぐ変わるさ」ハリーは、欠伸あくび交まじりに言った。
ハーマイオニーはもう地下の厨房ちゅうぼうに来ていた。クリーチャーが給仕きゅうじしたコーヒーとほやほやのロールパンを前に、憑つかれたような顔つきをしていた。ハリーは、試験勉強のときのハーマイオニーの顔を連れん想そうした。
「ローブ」
ハーマイオニーは声をひそめてそう言いながら、ビーズバッグの中を突つき回す手を止めず神経質にうなずいて、二人に気づいていることを示した。
「ポリジュース薬……透とう明めいマント……おとり爆ばく弾だん……万一のために一人が二個ずつ持つこと……ゲーゲー・トローチ、鼻血はなぢヌルヌル・ヌガー、伸のび耳みみ……」
朝食を一気に飲み込んだ三人は、一階への階段を上りはじめた。クリーチャーはお辞じ儀ぎをして三人を厨房から送り出し、お帰りまでにはステーキ・キドニー・パイを用意しておきますと約束した。
「いいやつだな」ロンが愛情を込めて言った。「それなのに僕は、あいつの首をちょん切って、壁かべの飾かざりにしてやりたいなんて思ったことがあるんだからなぁ」
三人は慎重しんちょうが上にも慎重に、玄げん関かん前の階段に出た。腫はれぼったい目の死し喰くい人びとが二人、朝あさ靄もやのかかった広場の向こうから、屋敷やしきを見張っていた。はじめにハーマイオニーがロンと一いっ緒しょに「姿すがたくらまし」して、それからハリーを迎えに戻ってきた。
いつものようにほんの一瞬いっしゅん、息が詰つまりそうになりながら真まっ暗くら闇やみを通り抜け、ハリーは小さな路地に現れた。計画の第一段階は、その場所で起こる予定だった。路地にはまだ人影はなく、大きなゴミ容器が二つあるだけだ。魔ま法ほう省しょうに一番乗りで出勤しゅっきんする職員たちも、通常八時前にそこに現れることはない。