瓦礫に半分埋もれながら、ハリーは立ち上がろうとした。舞い上がる埃で、ほとんど息もできず目も見えない。天井は半分吹き飛び、ルーナのベッドの端はしが天井の穴からぶら下がっていた。顔が半分なくなったロウェナ・レイブンクローの胸像がハリーの脇わきに倒れ、切れ切れになった羊よう皮ひ紙しは宙を舞い、印刷機の大部分は横倒しになって、キッチンへ下りる階段のいちばん上を塞ふさいでいた。そのとき、白い人影がハリーのそばで動き、埃に覆おおわれてまるで二個目の石像になったようなハーマイオニーが、唇くちびるに人差し指を当てていた。
一階の扉とびらがすさまじい音を立てて開いた。
「トラバース、だから急ぐ必要はないと言ったろう」荒々しい声が言った。「このイカレポンチは、また戯たわ言ごとを言っているだけだと言ったじゃないか」
バーンという音と、ゼノフィリウスが痛みで悲鳴を上げるのが聞こえた。
「違う……違う……二階に……ポッターが」
「先週言ったはずだぞ、ラブグッド、もっと確実な情報じょうほうでなければ我々は来ないとな 先週のことを覚えているだろうな あのばかばかしい髪かみ飾かざりと娘を交こう換かんしたいと言ったな その一週間前は――」またバーンという音と叫び声。「――お前は何を考えていた 何とか言う変な動物が実在する証拠しょうこを提供すれば、我々が娘を返すと思ったと しわしわ――」バーン「――アタマの――」バーン「――スノーカックだと」
「違う――違う――お願いだ」ゼノフィリウスはすすり泣いた。「本物のポッターだ 本当だ」
「それなのにこんどは、我々をここに呼んでおいて、吹っ飛ばそうとしたとは」
死し喰くい人びとが吠ほえわめき、バーンという音の連発の合間に、ゼノフィリウスの苦しむ悲鳴が聞こえた。
「セルウィン、この家はいまにも崩くずれ落ちそうだぞ」もう一人の冷静な声が、めちゃめちゃになった階段を伝って響ひびいてきた。「階段は完全に遮しゃ断だんされている。取とりはずしてみたらどうかな ここ全体が崩れるかもしれんな」
「この小汚こぎたない嘘うそつきめ」セルウィンと呼ばれた魔法使いが叫さけんだ。「ポッターなど、いままで見たこともないのだろう 我々をここに誘おびき寄せて、殺そうと思ったのだろうが こんなことで娘が戻るとでも思うのか」
「嘘じゃない……嘘じゃない……ポッターが二階にいる」
「ホメナム レベリオ 人 現れよ」階段下で声がした。
ハリーはハーマイオニーが息を呑のむのを聞いた。それから、何かが自分の上にスーッと低く飛んできて、その影の中にハリーの体を取り込むような奇妙な感じがした。
「上にたしかに誰かいるぞ、セルウィン」二番目の声が鋭く言った。
「ポッターだ。本当に、ポッターなんだ」ゼノフィリウスがすすり泣いた。「お願いだ……お願いだ……私のルーナを返してくれ。ルーナを私のところに返して……」
「お前の小娘を返してやろう、ラブグッド」セルウィンが言った。「この階段を上がって、ハリー・ポッターをここに連れてきたならばな。しかしこれが策略さくりゃくだったら、罠わなを仕し掛かけて上にいる仲間に我々を待ち伏せさせているんだったら、お前の娘は、埋まい葬そうのために一部だけを返してやるかどうか考えよう」