わずかの冷静さが、いま、ヴォルデモートの怒りを鎮しずめていた。あの小僧こぞうが、ゴーントの小屋に指輪が隠してあると知るはずがあろうか 自分がゴーントの血筋ちすじであると知る者は、誰もいない。そのつながりは隠し通してきた。あの当時の殺人についても、この俺おれ様さまが突き止められることはなかった。あの指輪は、間違いなく安全だ。
それに、あの小僧だろうが誰だろうが、洞どう窟くつのことを知ることも、守りを破ることもできはすまい ロケットが盗まれると考えるのは、愚ぐの骨頂こっちょうだ……。
学校はどうだ。分霊箱をホグワーツのどこに隠したかを知る者は、俺様ただ一人だ。自分だけがあの場所の、最も深い秘密を見抜いたのだから……。
それに、まだナギニがいる。これからは、身近に置かねばなるまい。もう俺様の命令を実行させるのはやめ、俺様の庇ひ護ごの下もとに置くのだ……。
しかし、確認のために、万全を期すために、それぞれの隠し場所に戻らねばならぬ。分霊箱の守りをさらに強化せねばなるまい……ニワトコの杖つえを求めたときと同様、この仕事は俺様一人でやらねばならぬ……。
どこを最初に訪ねるべきか 最も危険なのはどれだ 昔の不安感が脳のう裏りをかすめた。ダンブルドアは、俺様の二番目の姓を知っている……ダンブルドアがゴーントとの関係に気づいたかもしれぬ……隠し場所としてあの廃はい屋おくは、たぶんいちばん危ない。最初に行くべきは、あそこだ……。
湖、絶対に不可能だ……もっともダンブルドアが、孤こ児じ院いんを通じて自分の過去の悪いた戯ずらをいくつか知った可能性は、わずかにはあるが。
それに、ホグワーツ……しかし、あそこの分霊箱は安全だとわかりきっている。ポッターが網あみにかからずしてホグズミードに入ることは不可能だし、ましてや学校はなおさらだ。万が一のために、スネイプに、小僧が城に潜入せんにゅうしようとするやもしれぬと警けい告こくしておくのが賢けん明めいかもしれぬ……小僧が戻ってくる理由をスネイプに話すのは、むろん愚おろかしいことだ。ベラトリックスやマルフォイのやつらを信用したのは、重大な過あやまちだった。あいつらのバカさ加減かげんと軽けい率そつさを見ればわかる。そもそも信用するなぞということ自体、いかに愚かしいことかを証明しているではないか
まずは、ゴーントの小屋を訪ねるのだ。ナギニも連れていく。もはやこの蛇へびとは離れるべきではない……そしてヴォルデモートは荒々しく部屋を出て玄げん関かんホールを通り抜け、噴ふん水すいが水音を立てて落ちる暗い庭に出た。ヴォルデモートが蛇語へびごで呼ぶ声に応こたえて、ナギニが長い影のようにスルスルと傍かたわらに寄ってきた……。