世の中へ出る子供たち(2)_小川未明童話集_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29 点击:3337
二
それは、つい、
昨日のことのようなのが、もう四、五
年もたちます。
小学校を
出てから、三
人の
身の
上にも、
変化がありました。
中でも
気の
毒なのは、
小原で、
体が
弱くて、
中学校を
退きました。
正吉も、また
最近母を
失って、
年をとった
父親だけとなりましたが、
工手学校を
出ると、すぐ
勤めています。
高橋は、このほどようやく
工芸学校を
卒業して、
田舎へいくことになったのです。
正吉と
高橋は、
同じ
種類の
学校でありましたので、
平常も
往来をして、
自分たちの
希望を
物語ったり、
身のまわりにあったことなどを
打ち
解けて、
話し
合ったのでした。
「
僕のお
母さんはね、
昔の
芝居が
好きなんだよ。だけど
歌舞伎座なんて、
高いだろう。それに、いく
暇もないのさ。
僕と
妹のために、
盛り
場さえめったに
出られなかったのだものね。
僕は、お
母さんが
達者なうちに、すこしは
楽をさしてあげたいと
思うのだけれど、おぼつかないものだな。」と、ある
日、
高橋は、
正吉に
向かって、いいました。
「しかし、お
母さんは、お
達者なのだろう。」
「ああ、
病気ってしたことがないよ。それも、
二人の
子供を
自分の
手で
養育しなければならぬので、
気が
張っているんだね。」
高橋は、そう
答えました。
正吉は、お
母さんのことを
考えると、すぐ、
涙が
目にあふれてくるのです。
「
僕も、一
度お
母さんを、
湯治にやってあげたいと、
思っているうちになくなられて、もう
永久に
機会がなくなってしまった。」と、
正吉は、
歎息をもらしました。
「しかし、
君には、まだ、お
父さんがあるからいい。せいぜい
孝行をしてあげたまえ。」
なくなった
母親を
思い
出している、さびしそうなお
友だちの
顔を
見ると、
高橋は、こういってなぐさめたのです。
もう、
季節は、
秋の
末でありました。
正吉は、
高橋を
見送るため、
門から
出ました。
短い
日ざしは、
色づいた
木立や、
屋根の
上に、
黄色く
照り
映えていました。
「
高橋くんも、こちらに
勤め
口があるといいんだがな。」
正吉は、ただ、
近く
別れるのが
悲しかったのでした。こちらに、
思わしい
就職口がないので、
高橋が、
地方へいくのを
知っているからです。
「
雪は、
深く
降らないけれど、
僕のいくところは、
冬の
寒い
田舎なんだよ。
大仕掛けの
堤防工事なんだがね、そこへしばらくいくつもりなのだ。ただ
母と
妹を
残していくのが、なんだか
気がかりなんでね。」と、
高橋は、いいました。
「そう
長くは、いっていないのだろう。」
「ああ、しかし、こちらにいい
口があるまでは、どの
途、しかたがないのさ。」
「きっと、そのうちにはあるよ。」
「
僕たち、
若いうちに、いろいろ
経験するのもいいかもしれない。」と、
高橋は、
肩をそびやかして、
答えました。
「そうさ。
僕も、
満洲へいこうかと
思ったんだ。しかしおふくろを
失って、
間もないので、
父がさびしがると
思ったので、
見合わせたのさ。」と、
正吉は、
西の
紅く
夕焼けした、
空をながめていいました。