行业分类
カニ怪人
日期:2023-09-13 23:56  点击:243

カニ怪人


そんなさなかの、ある夜のことです。千葉県の銚子ちょうしにちかいSという漁師町に、ふしぎなことがおこりました。
午前三時ごろ、朝のはやい漁師たちも、まだおきない、真夜中に、海のほうでおそろしい音がしたのです。
町の人は、みんな目をさましましたが、なんの音だかわかりませんでした。軍艦ぐんかんにのって戦争にいったことのある老人は、大きな砲弾ほうだんが海におちて爆発した音に、にているといいました。しかしいまごろ、こんなところへ砲弾をうちこんでくるわけがありません。
朝になって、船をだしてみますと、海岸から一キロほどいった海面が、一面に赤黒くにごっていることがわかりました。そのへんに、なにか大きなものが、おちたにちがいありません。しかし、ふかい海ですから、なにがおちたか、きゅうに、しらべることもできません。大きないん石でもおちたのではないかということで、うやむやにおわってしまいました。
別所次郎べっしょじろう君はS町の漁師の子で、小学校六年生でした。おとうさんや、にいさんは、朝の四時ごろには、もう船にのって漁にでかけるので、次郎君も早起きです。朝早く、町からすこしはなれたところにある、岩山の上へいって、朝日ののぼるのを見るのがだいすきでした。あのおそろしい音のしたあくる朝も、次郎君は、その岩山の上に立って、太平洋の水平線をみつめていました。
水平線には、雲がながくたなびいて、それがまっかにそまっています。太陽が、いま、のぼろうとしているのです。
雲のあいだから、もえるような金色の太陽がのぞきました。そして、みるみる大きなまるい姿をあらわしてきます。あたりが、にわかにあかるくなってきました。
頭のうえには、Rすい星が、まだぼんやりと、ひかっていました。さっきまでは、はっきり見えていたのが、太陽の光にけされて、だんだん、うすらいでいくのです。
岩山のきゅうながけの下をのぞいてみると、ドドドン、ドドドンと波がうちよせて、白いあわをたてています。
ふと気がつくと、岩山の下のほうが、なにかモヤモヤとうごいているようにおもわれました。
「へんだなあ、岩がうごくはずがないが。」
とおもって、よく見ると、それは、たくさんのカニが、岩はだをのぼってくるのでした。大きいのや、小さいのや、何十ぴきというカニが、むらがって、のぼってくるのです。
次郎君は、こんなにたくさんのカニを見たのは、はじめてでした。ウジャウジャと、八本の足をうごかして、のぼってくるのを見ていると、なにかわるいことのまえぶれのようで、おそろしくなってきます。
カニどもは、もう岩山の上まで、のぼりついてきました。そして、次郎君の立っている足のほうへ、ゾロゾロとはいよってくるのです。
そのときです。
次郎君は、岩山の下の海面に、へんなものを見ました。たくさんのカニは、やっぱり、なにかのまえぶれだったのです。そのものは、あわだつ海面からヌーッと、青黒い姿をあらわしました。
それは大きな海ガメのこうらのように見えました。青銅色せいどうしょくをした海ガメです。
それが、だんだんあらわれてくると、青黒いこうらの下に、ピカピカ光る、二つのまるいものが見えました。黄色く電灯のようにひかっているのです。あっ、目です。怪物の二つの目です。
次郎君は「キャッ。」といってかけだしました。岩山からとびおりて、ちかくの森の中へ、いちもくさんに、にげこみました。それが、うちにかえる近道だったからです。
そのとき、怪物は、水面から全身をあらわしていました。頭は巨大なカニの形をしています。そこに二つの目がひかっているのです。頭の下に胸のようなものがあって、そこからカニのはさみににた、二本の腕が、ニューッとでています。そして、二本の足があって立ってあるくらしいのです。全身青黒くて、青銅でできているようなかんじです。
怪物はおそろしいはやさで、岩山の上にのぼりつきました。そして、次郎君が森の中へにげこんでいくのをみつけると、パッと四つんばいになって、そのあとをおいました。その速いこと。巨大なカニが、えものをおっかけるのと、そっくりです。
次郎君は、森の中へにげこみながら、うしろをふりむきました。あっ、怪物がおそろしい速さで、ちかづいてきます。
もうだめだとおもいました。気がとおくなりそうです。足がうごかなくなって、グタグタと、ひざをついてしまいました。
「アナタ、ニンゲンデスカ。」
へんてこな声が、耳のそばで、きこえました。「あなた人間ですか。」ときいているのです。怪物がものをいったのです。それにしても、「人間ですか。」なんて、なんというへんな聞きかたでしょう。
つむっていた目を、おもいきってひらいてみると、すぐ目の前に、あのいやらしい青黒いカニのおばけが、立ちはだかっていました。
おそろしい目が黄色くひかっていますが、べつに、くいついてくるようすもなく、「人間ですか。」なんて、まぬけたことをいっているので、いくらか安心しました。
「アナタ、ニンゲンデスカ。」
カニのおばけは、また、おなじことをくりかえしました。ばかばかしくても、こたえないわけにはいきません。
「そうです。人間です。」
次郎君は、勇気をだして、大きな声で、こたえました。
「ココハ、チキュウノ、ニホンデスカ。」
地球の日本ですか、ときくのです。これもへんな聞きかたです。
「そうです。日本です。」
「トウキョウデスカ。」
「ちがいます。東京は、ずっととおくです。」
すると、カニのおばけは、どこからか、一枚の銀色にひかった紙のようなものを、とりだしました。胸のへんに、そういうものを、いれておく場所があるのでしょう。
その紙には、日本の地図が書いてありました。地図には、こまかい字のようなものが、いっぱい、書きいれてあるのですが、一度も見たことのない字ですから、次郎君には、さっぱりわかりません。
「ココハ、ドコデスカ。」
カニの怪物は、地図を次郎君の目の前にさしだして、たずねました。
次郎君は、あいてが、おとなしいことがわかったので、安心して、地図をよく見て、銚子のところを、ゆびさしてみせました。
「チョウシデスカ。トウキョウハ、ココデスカ。」
怪人は、地図の東京のところを、大きなはさみで、さししめしました。
「そうです。」
それを聞くと、怪人は大きなカニの頭を、ガクンガクンと、うなずかせて、そのまま、たちさろうとします。
次郎君は、もうすっかり、安心していましたから、怪人をよびとめました。
「まってください。あなたは、いったい、なにものですか。」
「ナニモノ?」
怪人は、ギラギラ光る二つの目で、こちらをにらみつけました。
「どこからきたのですか。」
「アソコカラキマシタ。」
怪人は、大きなはさみのある手で、空をゆびさしました。それは、ちょうどRすい星のへんです。
「チキュウノニンゲン、アレRスイセイトイウ。ワタシ、Rスイセイカラキタノデス。ワタシノナマエモ、Rトシテクダサイ。」
怪人は、はさみで地面にRという字を書いてみせました。
「コノジ、ニホンノジデナイ。イギリス、アメリカノジデス。」
怪人の書いたRという字は、へんな形をしていました。上のまるいところがまるでカニのこうらのようにふくらんで、カニ怪人の頭にそっくりです。Rの下の二本の棒は、カニ怪人の足のようです。自分の姿をあらわすためにわざと、そんなふうに書いたのかもしれません。
「Rすい星には、あなたのような生きものが、たくさんすんでいるのですか。」
「タクサンイマス。シカシ、アレハスイセイデハナイ。ウチュウノ、ノリモノデス。トオイトオイ、ホシカラキタノデス。ワタシ、ニホンヘオリタ。イギリス、アメリカ、ソビエトヘオリタノモアル。」
やっぱり、あれは宇宙船だったのです。そこから、カニ怪人のはいったロケットのようなものをうちだして、地球へやってきたのでしょう。真夜中の、あのおそろしい音は、そのロケットのようなものが、海へおちた音にちがいありません。
しかし、次郎君には、ふにおちないことが、たくさんあります。
「そんなとおい星の生きものに、どうして日本語がはなせるのですか。」
まるで先生に質問するような口調でたずねました。
「ワタシ、ニホンゴ、イギリスゴ、ロシアゴ、ミナワカリマス。ワタシノホシデハ、ウチュウノコト、ミナ、シラベテ、ワカッテイルノデス、ワタシ、チキュウノニンゲンヨリ、百バイ、カシコイ。チキュウノニンゲンノ、デキナイコト、デキル。コノチズヲミナサイ。コレモ、ワタシノホシデ、コシラエタノデス。」
次郎君は、びっくりしてしまいました。とおいとおい星で、地球のことをすっかりしらべて、日本地図までつくり、日本語も英語もロシア語も話せるというのですから、まるで神さまのような知恵です。
ひろい宇宙には、こんなに進歩した生物もいたのかと、おったまげてしまいました。こんなカニのおばけみたいな、みにくい姿をしているくせに、その知恵は、地球のどんな学者だって、あしもとへもよりつけないのです。
「日本でなにをするのですか。だれにあいたいのですか。」
次郎君は、こんな知恵のあるやつが、地球を征服にきたのだったら、たいへんだとおもったので、それとなくたずねてみました。
「ニホンハ、ビジュツノクニトワカッテイル。ワタシ、ニホンノビジュツヒン、アツメテ、モッテイク。ニンゲンモ、モッテイクダロウ。」
「えっ、だまってもっていくのですか。日本には警察というものがあって、そんなことゆるしませんよ。」
「ケイサツ、シッテイマス。ダマッテ、モッテイク、ドロボウデスネ。ワタシ、ドロボウシマス。ケイサツ、コワクナイ。ワタシ百バイノチエアル。」
とんでもないことを、いいだしました。日本の美術品をぬすんでいくというのです。こんな知恵のある怪物なら、どんな美術品でも、わけなくぬすみだすにちがいありません。次郎君は、
「これはたいへんだ。すぐにこのことを学校の先生にしらせなければいけない。」
とおもいました。
「ワタシノコト、ダレニモイッテハイケナイ。ワカリマシタカ。イッタラ、アナタ、ホシヘ、ツレテイクヨ。」
カニ怪人は、ひらべったいカニのこうらのおくののどで、ケタケタとわらいました。そして、また四つんばいになって、あの岩山のほうへ、おそろしい速さでかけだしていきました。次郎君は、ぼんやりして、そのおそろしい姿を、見おくっていましたが、怪物のかげは、たちまち岩山のむこうに、きえさってしまいました。
海の底にあるロケットのような乗り物にもどって、それで東京港までいくつもりかもしれません。あれほど進んだ知恵をもっているのですから、ロケットはそのまま潜航艇せんこうていとしてつかえるように、できているのかもしれません。
次郎君は夢を見たような気持でした。あれがほんとうのできごとだったのかしら。まだねむっていて、夢を見ているのではないだろうかと、うたがってみましたが、どうも夢ではなさそうです。それから、いそいで学校の先生のうちへかけつけました。先生は庭で顔をあらっているところでした。
「先生、たいへんです。」
次郎君は、いきせききって、カニ怪人のことをはなしました。
「アハハハ……、きみはなにをいっているんだ。夢でも見たんだろう。そんなばかなことがあってたまるか。」
先生は、とりあってくれません。
「それじゃあ、あれはやっぱり、夢だったのかしら。」
次郎君は、自信がなくなってきました。
小语种学习网  |  本站导航  |  英语学习  |  网页版
09/27 19:21
首页 刷新 顶部