行业分类
水中の悪魔
日期:2023-09-15 16:46  点击:224

水中の悪魔


明智探偵の少女助手マユミさんのおとうさんの花崎俊夫さんは、世田谷せたがや区に大きな邸宅をもっている、りっぱな検事さんでした。花崎さんにはマユミさんのほかに、もうひとり、男の子がありました。マユミさんの弟で俊一しゅんいち君というのです。小学校の六年生ですが、ねえさんとちがって、探偵なんかきらいで、学校の勉強がすきな、おとなしい子でした。
それは日曜日の午後のことです。俊一君は勉強につかれて、広い庭の中をさんぽしていました。花崎検事のうちの庭は三千平方メートルもあって、森のような木立こだちがあり、そのまん中に、小さな池まであるのです。俊一君は、いま、その池のふちを歩いているのでした。
約五十平方メートルほどの小さな池です。水が青くよどんで、池の底は見えません。そんなに深くはないけれど、どろ深い池でした。おとうさんは、俊一君たちの小さいときには、この池のそばへ行ってはいけないと、きびしくいいつけていました。ひじょうにどろ深いのではまったら、どろの中へ沈んでしまうからです。よくいう「底なし沼」なのです。
俊一君は、三年生ぐらいまでは、この池がこわくてしようがありませんでした。俊一君のうちのじいやが、「あの池にはぬしがすんでいる。」といっておどかしたからです。ひとりで池のそばへいくと、目も鼻もない、のっぺらぼうの海ぼうずみたいなやつが、青くよどんだ水の中から、ヌーッと出てくるような気がしたのです。
しかし、俊一君は、一年ぐらいまえから、そんなことを、こわがらないようになっていました。俊一君は学校のよくできる、かしこい少年でしたから、もうおばけがいるなんて、ばかばかしいことを考えなくなったのです。それで、へいきで、池のまわりを歩けるようになっていました。
その日は、どんよりとくもった、いんきな天気でした。まだ三時ごろなのに、そのへんは夕方のようにうす暗いのです。大きな木が、森のように茂っているので、光がよくささないからでもあります。
俊一君は池のそばに立って、ぼんやりと、青くよどんだ水の上を見ていました。風がないので、水は一枚の大きな青ガラスのように、じっとしているのです。
そうしているうちに、なんだかへんな気持になってきました。なぜだかわかりませんが、世界じゅうで、じぶんが、たったひとりぼっちになってしまったような、さびしいさびしい気がしたのです。
すると、そのとき、池の水が、ゆらゆらとゆれました。
「コイがはねたのかしら。」
俊一君は、そう思って水のうごいた場所を見つめました。この池には大きなコイが、なんびきもすんでいたからです。
じっと見ていると、なんだか大きなものが、水の底から浮きあがってくるように感じられました。コイではありません。もっとずっと大きなものです。池いっぱいの大きなものです。
俊一君は、くらくらっとめまいがしました。あんまり、へんだったからです。まるで池の底が、ぐーっと、もちあがってくるように見えたからです。
水が青くにごっているので、よくは見えません。でも、その大きなものが、スーッと浮きあがってくるにつれて、だんだんはっきりしてきました。
俊一君は、いまわしい悪魔を見ているのではないかと、うたがいました。それは、じつに、とほうもないものでした。ゆらぐ水の中をすかして見るので、たしかにそうだとはいいきれませんが、それはべらぼうに大きな、ほとんど池いっぱいの人間の顔のように見えました。
俊一君は、もう動けなくなってしまいました。からだが石のようにかたくなり、足がしびれてしまって、どうすることもできないのです。心臓のドキドキする音が、じぶんの耳に、聞こえるほどです。
見まいとしても、目がそのほうに、くぎづけになって、見ないわけにはいきません。それは、やっぱり、人間の顔、いや、悪魔の顔でした。池いっぱいの巨大な悪魔の顔が、水面に浮きあがってきたのです。
そいつは、水の中で、一メートルもある大きな目を、ギョロギョロさせていました。たたみじょうもある巨大な口の、まっかなくちびるのあいだから、牙のような二本の歯が、ニューッとのぞいていました。
顔だけでも、こんなに大きいのですから、こいつの胴体はどんなにでっかいか、思っただけでも気がへんになりそうです。その胴体が、池のどろの中に深くしずんでいて、頭だけが顔を上にむけて、浮きあがってきたのかもしれません。
いくら、こわさに身がすくんだからといって、このまま、ぐずぐずしていたら、どんなことが起こるかわかりません。巨人の顔が水の中から出たら、どうでしょう。俊一君のからだの百倍もあるような、恐ろしくでっかい顔です。そいつが池の上いっぱいに、ヌーッと出て、ぱっくり口をひらいたら、俊一君なんか、ひとのみです。
俊一君は、逃げるなら、いまだと思い、下っ腹に力を入れて、「なにくそっ!」と、がんばりました。すると、いままで動かなかったからだが、動きだしたではありませんか。
それからは、もう無我夢中むがむちゅうでした。死にものぐるいで走ったのです。まるで、ころがるように走ったのです。
俊一君が走りだすといっしょに、恐ろしい音が聞こえてきました。
「ウワン、ウワン、ウワン、ウワン、ウワン、ウワン……。」
俊一君は知りませんでしたが、読者諸君にはおなじみの、あのニコライ堂のかねのような音でした。巨人はもう池の上に顔を出したのでしょう。でなければ、水の中では笑うことができません。
そのとき、俊一君のおとうさんの花崎検事は、洋室の書斎で本を読んでいましたが、検事の耳にも、あのぶきみな音が聞こえてきたのです。花崎さんは、びっくりして、いすから立ちあがると、窓をひらいて外をながめました。
すると、庭のほうから、まっさおになった俊一君が、かけてくるのが見えました。なにか恐ろしいものに、追っかけられてでもいるように、死にものぐるいで走ってくるのです。
「おい、俊一、どうしたんだ。なにかあったのか!」
声をかけますと、俊一君は、おとうさんの顔を見て、助けをもとめるように、いっそう足をはやめて、窓の下にかけつけ、両手をひろげて、窓わくにとびつこうとしました。
そのようすが、だれかに追っかけられて、入口からまわっていては、まにあわないというように見えましたので、花崎検事も、いそいで両手をのばして、俊一君をひっぱりあげ、窓から書斎の中にいれて、ピシャリと、ガラス戸をしめました。
「おまえの顔色は、まるで、死人のようだぞ。いったい、なにがあったんだ? けんかでもしたのか?」
花崎さんは、そういって、俊一君をいすにかけさせ、テーブルの上にあったフラスコの水を、コップについで飲ませました。
それで、やっと、俊一君は、声を出すことができるようになりました。そして、ことばもきれぎれに、池の中からあらわれた怪物のことを、しらせました。
すると、花崎さんは笑いだして、
「ハハハ……、おまえ、気でもちがったのか。そんなばかなことが、あってたまるものか。よしっ、おとうさんが、いって見てやる。」
と、俊一君がひきとめるのを、ふりはらって、書斎の外へ出ていきました。日本座敷のえんがわから、庭へおりて、池のそばへ、かけつけたのです。
俊一君は、おとうさんが、あの巨人にであって、食いころされるのではないかと、気が気ではありません。といって、おとうさんのあとを追って、庭へかけだす勇気もなく、ただ、やきもきするばかりでした。
ところが、しばらくすると、花崎さんは、のんきそうににこにこしながら、庭のむこうから、帰ってきたではありませんか。そして、書斎にはいると、
「俊一、おまえは、まぼろしを見たんだよ。池の中には、なんにもいやあしない。おとうさんは、長い棒きれで、池をかきまわしてみたが、なんの手ごたえもなかったよ。あの小さな池に、そんな巨人がかくれていられるわけがない。おまえは、あんまり勉強しすぎて、頭がどうかしたのではないかね。」
と、心配そうにいうのでした。
それを聞くと俊一君は、またびっくりしてしまいました。あんなでっかいやつが、とっさのまに逃げられるはずはないし、そうかといって、もう一度池の中へ沈んでしまったというのもへんです。だいいち、あいつは魚類ではないのに、池の水の中で、どうして息をしていたのでしょう。そこまで考えると、俊一君は、やっぱり、じぶんの頭がどうかしたのかしらと、思わないではいられませんでした。あれが、目をさましていて夢をみる、まぼろしというものだろうかと、なんだかじぶんがこわくなってくるのでした。
しかし、俊一君は、まぼろしを見たのではありません。あの巨大な顔は、ほんとうに、池の底から浮きあがってきたのです。それでは、花崎さんが、かけつけたとき、その巨人が、池の中にも、池の外にも、いなかったのは、どうしたわけでしょう。そんな大きなやつが、昼間の町の中を、のこのこ逃げだしたら、すぐに大さわぎになるはずではありませんか。
小语种学习网  |  本站导航  |  英语学习  |  网页版
09/27 17:32
首页 刷新 顶部