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闇に光る顔
日期:2023-09-18 15:04  点击:287

闇に光る顔


 井上一郎君は、ただひとり、黒ビロードのような闇の中を歩いていきました。大木がたちならんでいますから、その幹にさわりながら進むのです。
 めくらになってしまったように、なにも見えません。風がないので、木の葉のざわめきもなく、自動車のとおる町からは、遠くへだたっているので、あたりは、しいんと、しずまりかえって、耳が聞こえなくなってしまったのかと、うたがわれるほどです。
 木の札のおいてある大きな石のところまでは、百メートルほどあります。井上君は、やっと三十メートルぐらい進んだばかりです。うっかりすると、木の根につまずいて、ころびそうになるので、はやく歩けないのです。
 ふと見ると、森のおくのほうに、なんだか白く光るものが、(ちゅう)に浮いていました。
「おやッ、月がでたのかしら?」
 まさか、森の中に、月がでるはずはありません。では、いったい、あの光るものは、なんでしょう?
 井上君は、すぐに、ひとだまのことを思いだしました。ひとだまなら、こわくはありません。もっと近よって、正体を見とどけてやろうと、そのほうへ進んでいきました。
 しかし、五、六歩進んだとき、井上君は、ぴったり、たちどまってしまいました。それは、ひとだまではなかったからです。
 ひとだまにはオタマジャクシのような、しっぽがあると聞いていました。ところが、むこうに光っている、まるいものには、しっぽがないのです。しっぽがなくて、ただ宙に浮いているのです。そして、そいつは、だんだんこちらへ近づいてくるのです。
 井上君は、ギョッとして逃げだしそうになりました。
 その白く光るまるいものには、二つのまっ赤な目があったからです。大きなまるい目が、火のように赤くかがやいていたのです。
 そして、口です。ああ、その化けものが、ガッと口をひらいたのです。口の中も、まっ赤にもえていました。耳までさけた、まっ赤な口から、いまにも火を吹きだしそうに見えたのです。
 その赤い目の銀色の首は、しばらく、ふわふわと、宙にただよっていましたが、とつぜん、つつつつ……と、井上君の目の前に、とびかかってきたではありませんか。
「ワアッ……。」
 さすがの井上君も、叫び声をたててとびのきました。そして、いちもくさんに、森のそとへ逃げだしたのです。いくら拳闘ができても、化けものにはかないません。
 森の入口に待っていた小林君たち六人の少年は、「ワアッ……。」という声をききました。どうしたんだろうと心配しているところへ、井上君が、おそろしいいきおいで、とびだしてきました。
 まっ暗ですから、とっさには、だれだかわかりません。六人は、ギョッとして逃げだしそうになったくらいです。
「なあんだ、井上君か。どうしたんだ。」
 小林少年がたずねますと、井上君は息をきらして、
「ば、ば、化けものだ。化けものが、とびかかってきたんだ。」
 少年たちは、お化けなんか信じないはずだったではありませんか。
「化けものだって? そんなものがいて、たまるもんか。きみはなにかを、見まちがえたんだよ。」
 野田(のだ)という少年が、しかりつけるようにいいました。野田君は、柔道をならっている強い少年でした。
「見まちがえるもんか。ぼくはそんな弱むしじゃない。たしかに、首だけの化けものが飛んできたんだ。まっ赤な目がもえるように光っていた。口から火を吹くように見えた。そして、顔ぜんたいが、銀色なんだ。……ひとだまじゃないよ。ひとだまに目や口があるはずはない。」
 井上君は、やっきとなっていいはるのでした。
「それじゃ、みんなで、そいつを、たしかめに行こうじゃないか。」
 小林少年が、決心したようにいいました。
「うん、行こう、行こう。」
 みなが、口をそろえて賛成しました。お化けと聞いて逃げだすような、おくびょうものは、ひとりもいなかったのです。
「じゃあ、ぼくについてくるんだよ。」
 小林君は、そういって、さきにたって、まっ暗な森の中へ、ふみこんでいくのでした。

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