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宙を飛ぶ首
日期:2023-09-18 15:06  点击:239

宙を飛ぶ首


「で、その宝物というのは、どこにおいてあるのですか。」
 小林君がききますと、
「わたしの書斎においてある。べつに金庫にいれてあるわけじゃないから、こういっているうちにも心配だよ。すぐいってみよう。きみもいっしょにきてください。」
 杉本さんは、そういって、そそくさと立ちあがるのでした。
 応接間の一つおいてとなりに、りっぱな書斎がありました。いっぽうの壁は、本だなになっていて、日本の本、西洋の本が、いっぱいならんでいます。杉本さんは、重役といっても、毎日会社へでるわけではありませんから、本を読むひまがあるのでしょう。それにしても、よほど本がすきでなくては、これほど買いあつめることはできません。
 本だなとむかいあった壁には、ガラス戸だながいくつもならんでいて、その中にいろいろな美術品が、かざってあります。
 杉本さんは、その一つの戸だなのガラス戸をあけて、高さ十五センチぐらいの、黒っぽい金属の仏像を、うやうやしく取りだして、部屋のまん中のテーブルの上におきました。
「これが、わたしの宝物だよ。ぞくに推古仏(すいこぶつ)といって、今から千四、五百年まえにつくられた観音(かんのん)さまだ。銅でできているんだが、ごらん、このへんに、金がまだのこっている。つくったときには、金がはってあって、ピカピカ光っていたんだ。それが、千何百年のあいだに、はげてしまったんだよ。
 これは、こういう小さい推古仏のうちでも、ひじょうにできがいいし、きずがないので、重要美術品に指定されていて、何千万円という値うちのものだ。夜光人間は、むろん、この推古仏をねらっているんだよ。」
 小林君は、しばらく、その小さな仏像を、感心したように、ながめていましたが、ふと気がついて、腕時計を見ました。
「アッ、もう九時です。十時までには一時間しかありませんよ。宝物を、こんなところに出しておいても、だいじょうぶなんですか。」
と、心配そうにたずねました。
「だいじょうぶか、どうかわからないが、できるだけの用心はしてある。ちょっと、ここから、庭をのぞいてごらん。」
 杉本さんは立っていって、窓のカーテンをひらくと、かけがねをはずして、ガラス戸を上におしあげ、小林君を手まねきしました。
 小林君は、そこへいって、窓から顔を出し、まっ暗な庭をながめました。
 広い庭です。大きな木が立ちならび、ところどころに蛍光灯が光っています。でも、蛍光灯ぐらいで、庭ぜんたいを照らすことはできませんから、まっ暗なところのほうが、おおいのです。
 しばらく見ていますと、闇の木立ちのあいだに、ちらちらと、なにか黒いものが動いているのに気づきました。よく見ると、人間らしいのです。背広を着た男です。
「警視庁の刑事さんだよ。四人きているんだ。そして、庭や、うちの中の廊下などを見はっていてくれるんだ。ことに、この書斎のまわりを、厳重に見はってくれるようにたのんであるから、もしあやしいやつが近づけば、けっして、見のがすことはないと思う。」
 杉本さんは、そういって、ガラス戸をしめ、しっかりと、かけがねをはめました。
「この窓のガラスは、鉄網(てつあみ)のはいった厚いガラスだから、これをやぶって、はいることはむずかしい。窓は四つあるが、みんな、ちゃんと、かけがねがかけてある。入口のドアにも、さっき、中からかぎをかけておいた。だから、この部屋は、まるで金庫のようなものだよ。そのうえ、きみとわたしで、この仏像を見はっていようというわけだ。これだけ用心すれば、いくらあいてが怪物でも、まず、だいじょうぶじゃないか。」
 杉本さんは、そういって、にが笑いをするのでした。
 それから、ふたりは、仏像をおいたテーブルの両がわに腰かけて、じっと仏像を見つめていました。すこしでも目をはなせば、仏像がスウッと消えてしまいそうな気がして、いっときも、ゆだんができないのです。
 やがて九時半でした。それから九時四十分、九時五十分、五十五分、五十六分……じりじりと、予告の時間がせまってきます。
 杉本さんも小林君も、顔は青ざめ、目ばかりギラギラとかがやき、ハッ、ハッと、はく息が、せわしくなってきました。小林君の正確な腕時計が、九時五十九分をしめしました。あと一分です。小林君のひたいに、汗のたまが浮かんできました。
 五秒、十秒、時計の秒をきざむ音が、おそろしく耳をうちます。
 そのとき、窓のそとで、カタンと、かすかな音がしました。小林君は、おもわずそのほうを見ましたが、すると、小林君の顔から、サアッと血のけがひいて、目がとびだすほど、ひらかれました。そして、くぎづけになったように、窓を見つめたまま動きません。
 杉本さんも同じです。まるで、お化けにでもあったような恐ろしい顔で、窓を見つめています。
 その窓には、なにがあったのでしょう?
 カーテンがひらいたままになっている、その窓ガラスのそとに、ボウッと、白いものがただよっていました。
 青白くかがやく、銀色のまるいものです。それが、グウッと、窓ガラスにくっついてきました。ああ、人間の顔です。
 巨大な二つの目が、こちらをにらんでいます。まっ赤な血のような色の、でっかい目です。それから口! パクッと、ひらいた大きな口の中に、火がもえているようです。いまにも、火炎(かえん)を吹きだし、その熱で、窓ガラスをとかしてしまうのではないかと思われるばかりです。
 小林君は、おもわず、こぶしをにぎって立ちあがりました。刑事たちは、どうしているのでしょう。なにか大きな声をたてて呼ばなければなりません。小林君は、いきおいこめて、窓のほうへ、つきすすんでいきました。
 窓から一メートルほどに近づくと、夜光の首は、パッと消えてしまいました。小林君は、窓にとびかかって、それをひらこうとしました。
「アッ、こっちだッ!」
 杉本さんの、ギョッとするような叫び声が、聞こえました。
 ふりむくと、杉本さんは、はんたいがわの窓を指さしています。そのカーテンのすきまから、窓ガラスが、二十センチ幅ほど見えているのですが、そのそとに、夜光の首が、ふわふわと、ただよっているではありませんか。
 小林君は無我夢中で、また、そのほうへつきすすみました。
 ところが、そばまで行くと、夜光の首は、またしても、パッと消えてしまったのです。
 こうして、銀色赤目の怪物は、四つの窓のそとに、つぎつぎと、あらわれては消え、あらわれては消え、目にもとまらず、はやわざをくりかえしました。夜光の首が、四つあるのではないかと、うたがわれるほどでした。
 杉本さんも、小林君も、そのたびに、書斎の中を、うろうろするばかりです。ところが、そうして、あっちへ行ったり、こっちへ行ったりしているうちに、なにに気づいたのか、杉本さんが、恐ろしい叫び声をたてました。
「アッ! ないッ! 仏像がなくなった。小林君、仏像をぬすまれてしまったッ!」
 おどろいて、テーブルの上を見ますと、アッ! ありません。仏像は、かき消すようになくなってしまっていたのです。
 杉本さんはドアのところへ、とんでいって、とってをまわしてみました。かぎはちゃんとかかっています。四つの窓をしらべました。みんな、かけがねがかかっています。
 書斎は金庫のように、厳重にしまりができていたのです。それなのに、あの仏像が消えうせてしまいました。夜光怪人は、いったい、どんな魔法をこころえていたのでしょう。
 杉本さんと小林少年は、テーブルやイスの下はもちろん、部屋のすみずみを、くまなく、さがしまわりました。しかし、仏像はどこにもないのです。
 ふたりは、ゾーッと恐ろしくなってきました。夜光人間は化けものです。窓のそとからのぞいたと見せかけて、じつは、部屋の中へ、はいっていたのではないでしょうか。戸のすきまから、幽霊のように、スウッとはいりこんで、仏像を盗みさったのではないでしょうか。
 そのとき、窓のそとの庭が、にわかにさわがしくなりました。のぞいてみますと、ふたりの刑事が、宙に浮く首を追っかけているのです。
 夜光の首は、口から火炎を吹きながら、立ち木のあいだをぬって、スウッと、空中を飛んでいきます。
 ふたりの刑事は、なにか口々にどなりながら、おそろしいいきおいで、それを追っかけていくのです。

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