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ふしぎな家
日期:2023-09-18 15:09  点击:232

ふしぎな家


 このこじきの少年は、いったい、何者でしょう。
 なぜ明智探偵のあとをつけていくのでしょう。
 探偵は、すこしもそれに気づかぬようすで、暗い町を、いそぎ足にとおりすぎて、大通りへ出ますと、そこに一台の自動車が待っていて、明智はそれに乗りこみました。
 こじき少年は、どうするかと見ていますと、明智探偵が、自動車に乗るのを待って、高く手をあげて、あいずをしました。すると、むこうから、べつの自動車が、スウッと近づいてきて、こじき少年の前にとまったではありませんか。こんなきたない少年に呼ばれて、自動車がやってくるなんて、じつにふしぎなことです。
 そして、こじき少年の乗った自動車は、明智探偵の自動車を尾行するのでした。
 二台の車は、夜の町を、矢のように走りました。まだ八時ごろですから、町には自動車がたくさん走っているので、尾行がめだたないのです。
 しかし、やがて、明智探偵の車は、渋谷(しぶや)区にはいり、だんだん、さびしい町へ進んでいきます。そうなると、相手に気づかれないためには、二つの車のあいだを遠くしなければなりません。こじき少年は、運転手にさしずをして、たくみに尾行をつづけました。
 明智探偵の車がとまったのは、大きなやしきばかりならんでいる、さびしい町でした。そこに石の門のある二階だての西洋館があって、明智は車をおりると、その西洋館へはいっていきました。
 こじき少年も、ずっとへだたったところに、車をとめておりると、その石の門の中へ、しのびこんでいくのです。
 いったい、このコンクリートの西洋館は、だれのうちなのでしょう。門の表札には、『伊達五郎(だてごろう)』と書いてありますが、伊達五郎なんて聞いたこともない名まえです。明智探偵は、事務所へ帰らないで、どうして、こんなうちへ、はいっていったのでしょう。
「いよいよ、おかしいぞ。先生だけが知っていて、ぼくの知らないうちなんてないはずだからな。」
 こじき少年が、ひとりごとを、つぶやくのでした。
 少年は明智探偵のことを、「先生。」といいました。では、この少年は少年探偵団のチンピラ隊員なのでしょうか。しかし、それにしては、いまつぶやいたことばがへんです。もっと明智探偵としたしいあいだがらにちがいありません。
 ああ、そうです。これは小林少年が、変装しているのではないでしょうか。顔をうす黒くぬっていますが、あのぱっちりした、りこうそうな目は、たしか小林少年の目です。
 このへんで、もうほんとうのことを書いてしまいましょう。これは小林少年なのです。小林君はさっき赤森さんのうちで、明智探偵に、「きみは、さきに帰れ。」といわれて、外へ出ましたが、こんなことをいわれたのは、はじめてなので、なんだか、へんだと思いました。
 そこで、公衆電話から、明智探偵事務所へ電話をかけて、るす番をしているマユミさんにたずねてみますと、明智探偵から、今夜八時三十分に東京駅につくという電報が、きていることがわかりました。
 いよいよ、おかしいではありませんか。八時三十分につく明智探偵が、それよりずっとはやく、赤森さんのうちに、あらわれたのです。
 そこで小林君は、この明智探偵は、にせものかもしれないと考えました。顔も声も、そっくりですが、そういう変装の名人がないとはいえません。これまでにも、いろいろな事件で、にせ明智があらわれたことは、たびたびあるのです。
 小林君は、タクシーをひろって事務所に帰り、おおいそぎでこじき少年に変装をすると、こんどは、いつもつかうハイヤーをたのんで、赤森さんのうちの近くまでひきかえし、自動車は大通りに待たせておいて、赤森邸の門の前の電柱のかげにかくれていたのです。

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09/27 10:27
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