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魔术师-作者の言葉
日期:2023-09-20 10:54  点击:345

魔術師

江戸川乱歩

 

作者の言葉

 

 わが明智小五郎(あけちこごろう)は、(つい)に彼の生涯での最大強敵に相対(あいたい)した。ここに『蜘蛛男(くもおとこ)』の理智を越えて変幻自在(へんげんじざい)なる魔術がある。魔術師は看客(かんきゃく)の目の前で生きた女を胴切りにしたり、箱詰めの小女(こおんな)(つるぎ)芋刺(いもざ)しにしたり、彼女を殺害して鮮血したたる生首を転がして見せたり、(あるい)立所(たちどころ)に人を眠らせ、自由自在の暗示を与え、或は他人の心中(しんちゅう)持物(もちもの)看破(かんぱ)するなど、あらゆる奇怪事を行うことが出来る。
 兇賊(きょうぞく)がこれらの怪技の妙奥(みょうおく)会得(えとく)していた場合を想像せよ。流石(さすが)の名探偵明智小五郎もこの魔術師の心理的或は物理的欺瞞(ぎまん)には、いたく悩まされねばならなかった。
 魔術兇賊とは何者であるか。それがどんなに意外な人物であるか。又彼はそもそも如何(いか)なる悪業を(たくら)んだのか。そして、明智小五郎はよくこの大敵に打勝つことが出来たか(いな)か。名探偵と魔術師の争闘こそ見ものである。

「講談倶楽部」昭和五年六月号より

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