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魔术师-幽霊通信(1)
日期:2023-09-20 13:50  点击:253

幽霊通信


 さて、ここでお話を少し前に戻して、明智の帰京の原因となった、福田家の奇怪な出来事(だが、それは決して犯罪と名づける程の取りとめた事件ではなかった)について、語らねばならぬ。
 先の波越警部の言葉にもあった通り、福田得二郎氏は玉村宝石王の実弟で、彼も亦相当の資産を(よう)し、諸方の会社の株主となって、その配当()けで、充分贅沢(ぜいたく)な暮しを立てている、謂わば一種の遊民(ゆうみん)であった。
 彼は玉村家から福田家へ養子に貰われて行ったのだが、養父母を見送り、妻も昨年世を去って子供もなく、現在は本当の一人ぽっちであった。一種風変りな性質の彼は、その孤独を結句(けっく)喜んで、後妻を迎えようともせず、数人の召使と共に、広い洋風邸宅に、滅入(めい)った様な陰気な日々を送っていた。
 ところが、ある日のこと、誠に唐突に、彼の静かな生活を脅かして、奇怪千万な事件が起った。
 福田氏は、以前から一体陰気な性質であったが、夫人を失ってからは、一層それが(こう)じて、終日一間にとじ籠っている様な日が多かった。三度の食事の外は、召使と顔を合わせる事もなく、日が暮れると、サッサとベッドにもぐり込む。ベッドに這入(はい)る前に、寝室と書斎との二部屋に分れている彼の私室の、窓にも(ドア)にもすっかり内部から錠をおろして置くのが例になっていた。
 で、ある朝福田氏がベッドの中で眼を覚ますと、着ていた白い毛布の上に、一枚の紙が置いてあったのだ。変だなと思って手に取って見ると、タイプライター用紙に、鉛筆の(まず)い文字で、大きく、

十一月廿日(はつか)

 と(したた)めてあった。その外には何の文句もなく、誰が書いたのか、何を意味するのか、少しも分らぬ。
 福田氏は不思議に思った。こんな紙切れがある所を見ると、夜の間に、何者かが彼の寝室へ忍び込んだとしか考えられぬが、併し、それは全然不可能なのだ。福田氏はその前夜も就寝前に、書斎の(ドア)にはちゃんと内部から(しま)りをして置いた。庭に面した窓には、皆鉄格子(てつごうし)がはめてあるのだし、無論締りも出来ていた。紙切を投げ込む隙間なんてある(はず)がない。それにベッドは窓際(まどぎわ)からは余程離れてもいるのだ。
「変だな」と思いながら、彼はベッドを降りて、眠い目をこすりながら、念の為に窓や(ドア)を調べて見たが、どこにも異状はない。えたいの知れぬ、変てこな気持になって、鍵を(まわ)して(ドア)を開けて、召使達を呼んで尋ねて見たが、誰も部屋へ這入ったものはなく、その紙切についても、何も知らぬとの答えだった。
 変だ、変だと思いながら、その日は暮れた。ところが、その翌日、福田氏が目を覚ますと、これはどうだ、白い毛布の上の、昨日と同じ場所に、又してもタイプライター用紙がある。怖々(こわごわ)手に取って見ると、今日のは昨日のよりも一層簡単に、ただ二字、

「十四」

 と数字が書いてあるばかりだ。戸締(とじまり)に異状のないことは昨日の通り、召使達が何も知らぬことも昨日の通りである。
 用紙を(しら)べ筆蹟を検べて見たが、何の思い当る所もない。福田氏の知り合いには、一人もそんな筆癖(ふでくせ)の男はいないのだ。
「十一月廿日」や「十四」が何を意味するのか、差出人は誰なのか、戸締厳重な部屋の中へどうして持って来ることが出来たのか、凡てが全く想像も出来ない丈けに、ひどく不気味に思われた。「幽霊ででもなければ出来ない仕業だ」と考えると、何かしらゾッとしないではいられなかった。

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