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魔术师-幽霊通信(2)
日期:2023-09-20 13:51  点击:220

 だが、奇怪はそれで終った訳ではない。その次の日も、又次の日も、福田氏が目を覚ますと、必ず毛布の上に一枚の紙切れがのっていた。文句はやっぱり簡単な数字で、

「十三」「十二」「十一」「十」「九」

 と一日毎に一目下りに、順序よく変って行く。云うまでもなく、福田氏はそんなことが起り始めてから、就寝前の戸締りを一層念を入れて厳重にしたのだけれど、幽霊通信には、戸締りなんか邪魔にならぬと見えて、何の甲斐もなかった。
福田氏は、数字が「九」まで進んだ時、もう我慢がし切れなくなって、(おい)の玉村二郎(じろう)を呼びよせて、この快活な若者の智恵を借りることにした。二郎は宝石王玉村氏の二男で、妙子の兄に当り、ある私立大学に籍を置いて、遊び暮らしている、二十四歳の新青年であった。
「つまらないことを気にしたもんですね。誰かのいたずらですよ。叔父さんが神経を()むものだから、そんないたずらをする奴が出来るのですよ」
上述の福田氏の話を聞くと、二郎青年は事もなげに笑ってしまった。
「いたずらにしちゃ、念が入り過ぎているんだよ。ただ面白ずくで、こんな馬鹿な真似を幾日も幾日も続ける奴があるだろうか。第一、厳重に戸締をしたこの部屋へ、どうして這入って来るのか、まるで魔術師の様で、わしはゾーッとする事があるよ」
福田氏は大真面目で、本当に怖がっている様に見える。
「併し仮令魔術師にもせよですね。ただ紙切れが投込まれる丈けで、別に叔父さんに危害を加えようという訳ではないのだから、うっちゃって置くがいいじゃありませんか」
「ところが、必ずしもそうではないのだよ。この数字には何かしら恐ろしい謎が含まれている。見給え、最初来たのが、『十一月廿日』その次が『十四』、それから一日に一つずつ数が減って今朝は『九』になっている。順序正しく、非常に計画的だ。ところで、今日は何日だったかね」
「十一日でしょう。十一月十一日です」
「ホラ、見給え。十一日の十一に九を加えると幾つになる。二十だ。つまり『十一月廿日』になるのだ。ね、この毎日の数字は、あと十日しかないぞ、ホラ、もう九日になったぞという、気味の悪い通告書なんだよ」
聞いて見ると、成程それに相違なかった。二郎青年は一寸(ちょっと)行詰って、
「併し、通告状って、一体何の通告状なんです」
「サア、それが分らないから、一層気味が悪いのだよ。わしは別に人に(うら)みを受ける覚えもないが、人間どんな所に敵がいるか知れたものではない。若しかしたら、こうして怖がらせて置いて、わしに復讐(ふくしゅう)でもしようというのではないかと思うのだが」
その実、福田氏は、存外恐ろしい復讐を受ける様な覚えがあったのかも知れない。でなければ、たかがいたずら書きの紙切れにこうまで心を悩ます筈もないのだ。
「復讐って云うと?」
「つまり、十一月廿日こそ、わしの殺される日だという……」
「ハハハハハ、馬鹿な、つまらない妄想(もうそう)はお()しなさい。今時そんな古風な復讐なんかやる奴があるもんですか。でも、叔父さんが、そんなに気になるなら、僕今夜徹夜をして、叔父さんの部屋の張番をして上げましょう。そして若し紙切れを持って来る奴があったら、とっ捕えて上げましょう」
ということで、福田氏も実はそれを考えていたものだから、早速その晩、実行することになった。
二郎青年は、約束通り一睡もせず、日が暮れるとから、懐中電燈を用意して、福田氏の寝室の窓の外の庭だとか、(ドア)の外の廊下などを、一晩中歩き廻って、厳重な見張りを続けた。
「猫の子一匹、塀の中へ這入ったものはありませんでしたよ。どうです。まさか昨夜は紙切れは来なかったでしょう」
朝になって、叔父の部屋へ這入った二郎は、「それごらんなさい」と云わぬばかりに、得意らしく尋ねた。
だが、これはどうだ。福田氏は又新しい紙切れを持っていたではないか。
「これをごらん。ちゃんといつもの通り毛布の上に置いてあった。わしも今夜こそ正体を見届けてやろうと思って、一睡もせぬつもりでいたんだが、明け方近く、ついトロトロとした隙にこれだ。実に不思議な事もあるものだよ」
で、今朝の紙切れには、順序に従って、「八」と記してあった。福田氏の想像によれば「もうあと八日しかないのだぞ」という恐ろしい意味を含んでいる。
そうなると、新青年の二郎も、やや本気になって、それから福田家に泊り込み、書生などにも手伝わせて、二晩三晩、曲者(くせもの)の正体を見届けようと努力したが、(つい)に何の発見する所もなかった。一方、紙切れの数字は一日一日と減って行き、「三」という字を見た時には、福田氏も二郎も、もうじっとしてはいられない、いらだたしい気持になっていた。
今度は二郎の方から勧めて警察の助力を()うことにした。福田氏は知合いの波越警部に相談をかけた。又、玉村家の方へもこの不気味な出来事が伝わり、帰京したばかりの妙子の耳にも這入った。という訳で、明智小五郎を呼ぶことも、実は妙子の発案であり、それを波越警部が(ただ)ちに賛成したのであった。

 

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