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魔术师-獄門舟(3)
日期:2023-09-20 14:06  点击:262

 明智はそう云って、大丈夫だということを示す為に、ソファの上に起直(おきなお)って、真直に腰かけて見せた。だが、そうして起きて見ると、やっぱり身体が本当でないのか、部屋全体がグラグラ(ゆす)っている様な感じを受けて、思わずソファの上に片手をついた。
「まだ駄目な様です。何だか僕には、この部屋がフワフワ宙に浮いてる様な気がするんです」
「ホラ、ごらんなさいまし。まだ無理をなすってはいけませんわ」
「でも気分は何ともないんです。どうか御主人に()わせて下さい。御礼を云わなければなりません」
「イイエ、そんなこといいんですの。それに主人は今不在なのです」
その時、明智は、やっとその小部屋の作り方が、どうやら普通でないことに気がついた。
「オヤ、この部屋には、窓が一つもありませんね。じゃ昼間もこうしてランプをつけて置くのですか。妙な部屋ですね。で、一体今は昼でしょうか夜でしょうか」
実に変な聞き方だけれど、その部屋で目を覚ました人にとっては、当然の質問であった。
「夜ですの。今八時を打った所ですわ」
「何日の?」
「十一月、十八日」娘はそう答えて、口に手を当ててクスクス笑った。
「僕が上野駅についたのは十七日の晩だから、丸一日眠っていた訳ですね」
独言(ひとりごと)の様に云ったものの、何だか変な感じだった。娘の妙に慣れ慣れしい様子と云い、窓のない部屋といい、その上いつまでたっても、頭がフラフラして、部屋そのものが不安定に感じられるのも不快だった。
「この部屋は一体何階にあるんです」明智はたまらなくなって、変なことを尋ねた。「何だか高い塔の上にいる様な気持がするんです。若しや本当に、そんな高い建物の上にあるんじゃありませんか」
「そうかも知れませんわ」娘は相変らず、どこか表情の奥で笑っていた。「でも、居心地は悪くないでしょう。当分御滞在の間、出来る丈け御心持のいい様にと、云いつけられていますのよ。お気に召さないことがありましたら、御遠慮なくおっしゃって下さいまし。御食事でも何でも」
娘はチラと銀盆の上の、オートミールの皿を見て云った。
「滞在ですって。冗談じゃありません。僕は大切な用事があるのです」
明智はあっけにとられてしまった。狐につままれた様な、凡ての因果関係が混乱してしまった様な、途方もない感じがした。
「イイエ、そんなにおあせりなすっては駄目(だめ)ですわ。何も御考えなさらない方がいいわ」
娘はまるで気の毒な精神病者をでも慰める調子で云ったが、一寸小首をかしげて、
「では後程又参りますわ。まずいのですけど、どうか御ゆっくり召上って下さいまし」
娘が逃げる様にして、ドアを開けるので、明智は驚いて、
「待って下さい。待って下さい」
と呼びながら、ソファから立上り、娘の跡を追ったが、五六歩でドアの所に達し、廊下へ出た娘の袖を、もう少しで捕えようとした時、突然、思いがけず、何かに足をとられて、バッタリ倒れてしまった。
「ホホホホホホ、ですから、じっとしていらっしゃる方が御為ですわ」
鼻の先でドアが閉って、ドアの外から娘の声が嘲る様に響いて来た。
気がつくと、足首に細い(くさり)がついて、その一端が部屋の真中のソファの下の床に取りつけてあることが分った。つまり彼は、丁度動物園の熊の様に、その(くさり)の描く円周の外へは出られないのだ。
ナアンだ。救われたというのは嘘で、ここは賊の巣窟だったのか。こいつは面白くなって来たぞ。明智は真相を知ると、失望するどころか、(かえ)って、ひどく争闘慾をそそられたのである。

 

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09/26 05:12
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