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魔术师-幽霊塔
日期:2023-09-20 14:11  点击:311

幽霊塔


 妙子は寝台から(すべ)り落ち、あけに染って倒れていた。右腕のつけ根に、グサリ突刺(つきささ)って、まだブルブル震えている短刀。
 家内中のものが妙子の寝室へ集って来た。見張番の刑事はこのことを警察署へ報告した。やがて、駈けつけて来た係官の取調べ。それをこまごま書いていては際限がない。
 例によって犯人の通路は全く不明であった。窓もドアも凡て内部からしっかり締りが出来ていた。玄関の寝ずの番も、居眠りをしていた訳ではなく、表門裏門の刑事達も部署を離れていた訳ではない。殆ど奇蹟である。犯人は文字通り魔法使であったのだろうか。信じ難い奇怪事だ。
 だが、まだしも仕合せであったのは、二郎の気附き方が早く、大声で怒鳴った為に、犯人は殺人の目的を果す暇なく、ただ、短刀の一突きで、そのまま逃出してしまったことだ。可成(かなり)重傷ではあったけれど、致命傷ではない。妙子は恐怖の余り一時気を失ったばかりだ。
 負傷者は時を移さず大森外科病院へ運ばれたが、彼女はその前に已に意識を恢復(かいふく)していた。刑事が「犯人の顔を見たか」と尋ねると、「顔は見なかったが七尺もある様な、恐ろしい大男だった。何かしら天井につかえ相な黒い(かたまり)だった」と答えた。分ったことはただそれ丈けで、他には髪の毛一筋の手掛りもなかった。短刀は玉村氏が事件以来護身用にと妙子に与えて置いた品であったし、今度は福田氏の場合と違って、壁に巨人の手型も見当らなかった。
 だが、たった一つ丈け、犯人の残して行ったものがある。それは巨人の手型などに比べて、もっと現実的な、怪賊の傍若無人をそのまま語っている様な、恐ろしい代物であった。
 というのは、一枚の白いカードが妙子を突刺した短刀の根元に、丁度(つば)ででもある様に、(つらぬ)かれていたのだ。しかもそのカードには、いつもの不気味な筆蹟で、4という数字が大きく書いてあった。
 妙子が病院へ運び去られたあとで、現場に居残った人々の間に、初めてこのカードが問題になった。そこに記された4という数字は、一体全体何を意味するのかということが問題になった。
「犠牲者の番号をつけるのなら、3とあるべきです。それに、この数字はこれまで、いつも犯行の予告に使われて来た。それ以外の用途はなかった。とすると、この4というのが、やっぱり、次の兇行までの日限を示すものではないでしょうか」
 一人の刑事が、誰しも念頭に浮べながら、余りの恐ろしさに口にすることを(はば)かっていた点に触れた。
「最初は十四日の猶予がありました。次は八日、そして今度は四日と縮められたのです。兇行のテンポは次々と早くなって行く、……と考える外はないではありませんか」
 彼は冷酷に云い放って一座の人々を眺め廻した。
 アア何という兇悪無残、何という人非人、怪物は、今人を殺しながら、その刹那、已に次の兇行を予告しようとしているのか。
 果して、この想像は適中した。次の日には配達された手紙類のどれにもこれにも、漏れなく、赤鉛筆で小さく3の字が記入してあったではないか。直ちに郵便局を検べ集配人を(ただ)したが、何の()る所もなかった。その翌日は、外出から帰った長男一郎の折鞄(おりかばん)の中から、2と記したカードが現われた。
 一郎は家内中での気丈者(きじょうもの)であった。彼は魔法使を妄想している人々の迷信を笑った。七尺位の男は、広い世間にいないとは()まらぬ。それは幽霊や魔法使いでなくて、一箇の殺人狂に過ぎないのだ。密閉された部屋へ這入るといって、人々は驚いているが、それもこちらに手落ちがあって、気附かないでいるのだ。油断さえしなければ、ナアニ、相手も人間だ。そうビクビクすることはないと考えていた。
 ところが、今度はこの笑っている本人の折鞄から、幽霊文字が現われたのだ。外出中一度も身辺を離さなかった折鞄の中からだ。それでも、一郎は恐れなかった。恐れる代りに憤慨(ふんがい)した。手品使いみたいな怪賊の悪戯(いたずら)(いか)った。で、彼も亦、弟の二郎などと同じ様に、賊を探し出し引捕えることを心願する一人となった訳である。
 か様にして遂に数字の1となり、明くれば予告の当日となった。玉村邸の防備は前と同様、外に手の尽し様もないのである。
 だが、その当日になって、一寸意外な事が起った。というのは、賊は昨日最後の1という通告を発して置きながら、どういう訳か、更らに今日も、妙な幽霊通信を送って来たのだ。しかも、それの現われたのが、非常に突飛な場所であった。
 その日のお昼過ぎの事、一郎は一間に集る家人から離れ、ただ一人庭に出て、建物の廻りを見廻っていた。この建物のどこかに、人の気附かぬ様な、秘密の出入口が出来ているのではないかと疑ったからだ。
 で、そうして歩き廻っている内に、秘密の出入口などはなかったけれど、その代りに、妙なものを発見した。何気なく目を上げて、遙か屋上の例の時計塔を眺めていると、その文字盤の表面に、遠くて読めぬけれど、何か文字らしいものを記した紙切れが、ベッタリ貼りつけてあるのに気がついた。
「オヤオヤ、兇行の日延べかな?」
 一郎は、紙切れの文字が一字丈けでないらしいのを見て、変なことを考えた。
「よしよし、一つあすこへ昇って、あの手紙をはがして来てやろう」
 一郎は即座に決心して、誰にも知らさず、洋館の二階に上り、塔への特別の階段を昇って行った。気丈な彼は、こんなことで騒ぎ立てて、神経過敏になっている人々をおびやかすこともないと思ったのだ。
 とうとう怪賊は時計塔を利用した。幽霊犯人と幽霊塔、何という不気味にもふさわしい組合せであろう。だが、それにしても、賊は一体どうして、あんな所へ貼紙をすることが出来たか。屋根伝いに上へ昇るのは訳はない。問題は、賊が如何にして人目に触れず、邸内に忍び込み、屋上を這い廻ることが出来たかという点にある。夜の(うち)に? だが夜とても邸のまわりには厳重な見張り番がついているではないか。
 やっぱり怪物だ。魔法使だ。アア危い。一郎は深くも考えず賊の恐ろしい罠に(おちい)ろうとしているのではなかろうか。

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