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魔术师-大魔術(3)
日期:2023-09-20 14:15  点击:251

 舞台では、美人解体作業がグングン進んで、両手両足の切断を終り、次には、重いダンビラが横ざまにひらめいたかと見ると、チョン切られた美人の首が、(まり)の様に宙を飛んで、切口から仕掛けの赤インキが、滝津瀬とほとばしった。
 (あけ)に染まった生首、両手両足が、舞台のあちこちに、人喰い人種の部屋みたいに、ゴロゴロと転がっていた。
 椅子の上に取り残された、首も手足もなんにもない胴体は、不気味なドラッグの蝋人形の様に、チョコンと坐っていた。
 二郎はそのむごたらしい有様を見て、花園洋子その人が、その様な目に合ったと同じ恐れと悲しみに、唇の色を失って、ワナワナと震えていた。そんな馬鹿馬鹿しいことがある筈はないと、我と我が心を叱りながらも、胸の底からこみ上げて来る一種異様の戦慄をどうすることも出来なかったのだ。
 手品師も、見物を余りに恐怖せしめることを(はば)かったのか、解体の残虐場面は、(またた)く間に終って、次には、陽気な、美人組立て作業が始まった。
 突如として起る、下座(げざ)の華やかな行進曲。そのジンタジンタの楽隊に合わせて、道化師は、身振り面白く、舞台一面に転がった人形の首や手足を、拾っては、椅子の上の胴体へと投げつけるに従って、足は足、手は手と、元の場所へ、ピッタリと吸いつく、見る見る、バラバラの五体が一つに(まとま)って行くのだ。
 そして、最後に、ヒョイと首がのっかったかと思うと、その首がいきなりニコニコ笑い出す。道化師が繩をとき、猿轡をはずしてやると、美人は立上りさま、しっかりした足どりで、舞台の前方に進み出で、自分で目隠しをとって、(なまめ)かしく挨拶する。その顔は、まがいもなく、さっきの美しい女太夫(おんなだゆう)、即ち賊の娘の文代なのだ。
 二郎は、この美人組立てのトリックも知っていた。いつの間にか椅子が廻転して、本物の娘が、首手足を背景と同じ黒天鵞絨で隠し、胴体ばかりに見せかけて腰かけている。手品師は、バラバラの手足を投げると見せて、自分のうしろの背景の隙間に隠す、その刹那、娘の手足を覆った黒布が一つ一つ落ちて、丁度手足が生えて行く様に見えるのだ。
 二郎が驚き恐れたのは、そんなトリックなどではなかった。さっき大ダンビラで切断された人形も、今立上って挨拶している娘と同じ様に生きてはいなかったか。吹き出したのは、赤インキではなくて、本当の血潮であり、あのうめき声は、真実断末魔のむごたらしい苦悶(くもん)だったのではないか。という悪夢の様な考えであった。
 二郎は、寒い気候にも拘らず、身体中にネットリ汗をかいて、已に(おろ)された緞帳を見つめていたが、丁度舞台の娘が背景の裏へ這入ったなと思われる頃、幕のうしろから、たった一声ではあったが、「キャッ」という、確かに若い女の悲鳴が聞えた様に思った。
「アア、きっと、あの娘が、殺されたもう一人の娘の、バラバラの死体を見たのだ。そして、恐怖の余り叫び出そうとしたのを、誰かが口に手を当てて、黙らせてしまったのだ」
 と、彼のいまわしい幻想は、どこまでも拡がって行くのである。
 まだあとに幾幕か残っていたけれど、彼はもう、じっと手品を見ている気がしなかった。フラフラと立上って、無神経に笑い興じている見物達の間を通って、木戸口を出た。
 小屋の外には、美しい星空の下に、真黒な家々が、シーンと押し黙って並んでいた。人通りも殆どなく、墓場の様に滅入(めい)った田舎町だ。
 彼は邸へ帰る為に、五六歩あるきかけて、ふと立止った。何となく、この罪悪をとじこめた様な芝居小屋を、離れ去るにしのびない感じである。
 彼はそこへ行って、何をするという確かな考えもなく、夢中遊行の様な足どりで、小屋の楽屋口へと歩いて行った。
 角を曲って、建物の背面に出ると、そこに半間程の小さな出入口が、ポッカリ口を開いていた。薄暗い電燈が、ボンヤリと、地面を長方形に区切っている。その中に、異様な大入道みたいなものが映っているのは、入口を這入った所に、誰かが佇んでいるのであろう。
 二郎はまるで泥棒みたいに、足音を盗んで、オズオズとそこへ近づいて行った。そして、出入口の板戸に手をかけ、ソーッと頭丈け突き出して、中を覗いて見た。
 大劇場と違って、楽屋口の番人も何もいない。ガランとした、薄汚い廊下がある切りだ。その出入口の彼のすぐ目の前に、何をしているのか、一人の男が向うを向いたまま、人形ででもある様に、身動もせず突立っている。
 その時、二郎が手をかけていた板戸が、身体の重みで、カタンと鳴った。ハッとうろたえて、覗いていた首を引込めようとした瞬間、物音に驚いた目の前の男が、ヒョイとこちらを振向いた。
 顔と顔とがぶつかった。
 二郎は一目その顔を見ると、まるでお化けにでも出会った様に、「ワッ」と、途方(とほう)もない叫声を立てたかと思うと、いきなりクルッと向きを変えて、滅茶苦茶(めちゃくちゃ)に駈け出した。そのお化けが、うしろから追っかけて来るかの様に。
 楽屋口に佇んでいた男というのは、意外千万にも、或は当然至極にも、彼が数日来疑い恐れていた、あの庭掃除の音吉爺やであったのだ。

 

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