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魔术师-深夜の婦人客(2)
日期:2023-09-20 14:30  点击:250

 聞いて見ると、文代は隅田川の川口に碇泊(ていはく)している、例の怪汽艇の一室にとじこめられていたのだが、次の室で賊の部下達が話しているのを聞いて、小石川の旗本屋敷の陰謀を知り(彼女は前章に記した賊の悪企みを、手短かに語った)非常な苦心をして汽艇を抜け出し、タクシーを飛ばして明智の住いへかけつけたというのだ。明智が「開化アパート」に移ったことは、とっくに賊の方に知れていて、自然文代の耳にもは()ったのだ。
 又、先日来の大捜索に、この怪汽艇がどうして其筋(そのすじ)の目をのがれたかと云えば、外部をすっかり塗り変えて、真面目な貨物船と見せかけていた上、多くは港外の海上をあちこちして、同じ場所に半日とは碇泊しなかったからである。
「あたし、それを聞きましたのは、夕方の五時頃でしたが、父の部下の一人をだまして、戸をあけさせるのに、つい今しがたまでかかったのです。それは苦労を致しましたわ。で、もうこんなにおそくては、あとの祭りかと思いましたけれど、一番恐ろしいことは、まだ済んでいないかも知れぬと、それを頼みに先生のお力を拝借(はいしゃく)に伺ったのです。なんぼ父親のすることでも、四人もの命が奪われるのを、黙って見ている訳には行きません」
「一番恐ろしいことと云うのは?」
 明智が尋ねると、文代は物云う暇も惜し相に、早口に答えた。
「その穴蔵を抜け出すには、骸骨の置いてあった、煉瓦の破れた所から、土を掘って地上へ出る外はありません。四人の方はきっとその方法をお選びなさるに違いありません。ところが、それは父の思う壺なのです。ちゃんとそのことを見越して、恐ろしい仕掛けが出来ているのです。そこの土を上の方へ掘って行きますと、深い水溜(みずたま)りの底へ出ます。その水溜りへは、庭の大きな池から水が通う様になっていて、一度土がくずれると、池の水が悉く地下の穴蔵へ流れ込み、中にいた人は溺死しなければならぬのです。アア、こういう内にも、四人の方は、もうその水責めにあっていらっしゃるかも知れません。サア早くいらしって下さいまし」
 それを聞くと、明智は少しもためらわず、書斎にかけ込んで、卓上電話に向い、警視庁の波越警部の自宅を呼出した。
 犯罪捜査を生命とする波越警部は、枕下(まくらもと)に官服と電話器とを置いて眠る習慣だったので、取次を待つ面倒もなく、直様聞慣れた相手の声が出た。
 明智は手短かに仔細(しさい)を語り、小石川の旗本屋敷の所在を教えて、先方で落ち合う約束をして電話を切った。警部の方では、電話で小石川警察に手配を依頼した上、自分も数名の警官を伴い、直ぐ現場(げんじょう)に自動車を飛ばす筈であった。
 明智は電話を継ぎ直して、近所のタクシーを呼ぶと、元の客間へ引返した。
「お聞きの通りです。何だったら、あなたは、ここに待っていてはどうです」
「イイエ、構いません。あたし、その家の様子をよく知っていますから、ご案内致しますわ」
 文代は眉を上げて、固い決心を示した。実の父親の捕物に、案内役を勤めないではいられぬ、悲しい娘の心。何という因果なめぐり合わせであろう。
 その深夜、お茶の水と、(まる)(うち)を出発した二台の自動車が、一台には明智と文代、一台には波越警部と四名の部下をのせて、小石川の高台へと走った。
「間に合いますかしら。あたし、何だか胸がドキドキして……」
 文代が気をもんでいたと同じく、別の車では波越警部が、
「今度こそは、兇賊を捕えないで置くものか」と汗ばむ拳を握っていた。

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