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大宝庫(2)
日期:2023-10-02 23:49  点击:333

 分った、分った。わしが棺から飛び出す勢いで、この丸太をつき倒したのだ。それで棚が傾いて、上にのせてあった宝の棺が落ち、その拍子に蓋がとれてしまったのだ。
 こうまで辻褄のあった夢なんて、あるものでない。すると、やっぱり本当かな。それにしても、墓場にこれ程の財宝が隠してあるとは、何とも合点の行かぬことだが……と、ボンヤリ目を動かしていると、ふと注意を()いたものがある。
 宝の棺の側面に、一寸角程の、真赤な髑髏(どくろ)が描いてある。それが何か紋章の様な感じなのだ。「紅髑髏」「紅髑髏」オヤ、どっかで聞いた覚えがあるぞ。ハテ、なんであったか。……アア、そうだ。海賊の紋章だ。十何年というもの、官憲の目をくらまし、支那海一帯に暴威を振っている、海賊王、朱凌谿だ。わしはそれを人にも聞き新聞でも読んで覚えていた。
 さては、わしの家の墓穴が、あの有名な海賊の宝庫に使用されていたのか。不思議なこともあるものだ。(しか)し、考えて見れば、必ずしも不思議ではないて。
 いつ捕えられるか分らぬ海賊稼業には、こうした秘密の蔵が必要かも知れない。あわよくば刑期をすませて、その財宝を取出し、後生を贅沢に暮らすことも出来るのだからな。それには自国の支那よりも、日本の海岸が安全だ。しかも、墓穴の中なれば、十年に一度、二十年に一度しか人が入らぬし、入った所で、不気味な場所を、態々(わざわざ)調べて見るものもない。アア、墓穴を宝の隠し場所とは、流石(さすが)は賊を働く程の男、よくも考えついたものだ。
 愈々(いよいよ)わしの目に間違いはない。わしは生埋にされたばっかりに、巨万の富を手に入れることが出来たのだ。
 わしは棺の側に(うずくま)って、子供の様に金貨を(もてあそ)んだ。金貨は皆小袋に入っていたのだが、棺の転落と共に、袋の口が破れて、一面に溢れ出したのだ。わしは丹念にそれを元の袋へ詰め込んだ。そして、まるで子供の様に、一つ二つと(かぞ)えながら、その袋を取出しては地面に積上げた。総計五十八個だ。しかもその上に、袋をのけた棺の底には、主として日本支那の(おびただ)しい紙幣の束が、まるで紙屑の様に押しこんであったではないか。
 嬉しさに算えて見ると、日本の紙幣ばかりで三万いくらあった。支那紙幣、金銀珠玉を通計したら、恐らく百万円は下らぬであろう。

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