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白髪鬼(3)
日期:2023-10-02 23:49  点击:338

 わしは悲しかった。イヤ、あんまりみじめな我が境遇が、おかしい位だった。
「ですが、大牟田さんも、今お死になすったのが、結句仕合せかも知れませんよ。永生(ながいき)すれば奥様が奥様ですからね。いいことはありますまい。このわたしと同じ様に、世をはかなむ様なことになったかも知れません」
 主人は、何か述懐めいたことを云って、商人にも似合わずうちふさぐ様子だ。
 わしはそれを聞くと、実に異様な感じがした。聞捨(ききずて)ならぬ言葉だ。
「奥様が奥様とは何の事だね、エ、御主人」
 わしは()いて何気ない声で聞返した。
「高い声では申せませんが、大牟田の若様は申分のない方でしたが、それに引きかえ、奥様の方は、どうもちと、……」
 と言葉をにごす。
 奥様とは云うまでもなく、我が妻瑠璃子のことだ。あのいとしい瑠璃子を「奥様がどうもちと」とはけしからぬ云い草だ。こいつ気でも違ったのではないかと、腹立しく思ったが、先を聞かねば、何となく気になるものだから、
「奥様がどうかしたのかね」
 と尋ねると、主人は待ってましたと云わぬばかりに喋り出す。
「どうもせずとも、あの美しい顔がいけないのです。男の目には、天女の様にも見えましょうけれど、天女だって油断が出来ませんからね」
 益々(ますます)異様な言葉に、わしはもう目の色を変えて、
「それはどういう訳だ。お前さん何か知っているのか」
 と主人につめよった。
 アアこの老人、我が妻瑠璃子について、()も何を語ろうとするのであろう。

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