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明智小五郎(2)
日期:2023-10-08 10:57  点击:311

「ああ君、ちょっと行先きを変えるよ。麻布(あざぶ)竜土町(りゅうどちょう)だ。竜土町のね、明智小五郎っていう家へ行くんだよ」
「承知しました。私立探偵ですね」
運転手が威勢(いせい)よく答える。
「おや、君はよく知っているね」
「有名ですからね。あたしゃ、早くあの先生が登場すればいいと、待ちかねているんですよ」
「どこへ登場するっていうんだい?」
「ご存じでしょう。ほら、例の大都劇場の一件でさあ。蘭子を(ねら)っているけだものでさあ。早く明智さんが出て、あの人間と豹の混血児みたいなえてものを、やっつけてくれりゃいいと思っているんですよ。あたしゃ、江川蘭子は大のひいきですからね」
「ああ、そうかい。今にそんなことになるだろうよ」
他人の運転手でさえそこへ気がついているのだ。なぜおれはもっと早く明智探偵を訪ねなかったろうと、神谷はひとしお頼もしい感じがした。
明智小五郎は「吸血鬼」の事件の後、開化アパートの独身住いを引き払って、麻布区竜土町に、もと彼の女助手であった文代さんという美しい人と、新婚の家庭を構えていた。その家庭が同時に探偵事務所でもあった。夫妻ともに探偵好き冒険好きなので、家庭と事務所とを別々にする必要はまったくなかったのだ。
低い御影石(みかげいし)の門柱に「明智探偵事務所」と、ごく小さな真鍮(しんちゅう)の看板がかかっている。そこをはいって、ナツメの植込みに縁どられた敷石道を()と曲がりすると、小ぢんまりした白い西洋館。玄関の呼鈴を押せば、直ぐさまドアがあいて、林檎(りんご)のような()っぺたをした詰襟服(つめえりふく)の愛くるしい少年が顔を出した。これも「吸血鬼」事件でおとなも及ばぬ働きをした少年助手小林である。
幸い、明智は在宅であった。神谷はこころよく応接間に通され、名探偵と初の対面をすることになったのだが、彼がちょうど応接間へ通ったころ、門前にもう一台の自動車がとまった。そして、その中に眼を光らせていたのは、なんと高梨家の執事(しつじ)と称する、白髪白髯(はくはつはくぜん)の怪老人ではなかったか。
神谷は少しも気づかなかったけれど、相手の方では門前をうろつく、怪しげな青年を見逃さなかった。いや、老人はそれ以上のことさえ知っていたかもしれない。彼は神谷の跡をつけたのだ。そして、彼が明智探偵事務所へはいったのを見届けたのだ。
老人は車をとめて、少しのあいだ考えごとをしていたが、やがて懐中から手帳を取り出すと、その紙を破り取って鉛筆で何かしたため、それを運転手に渡しながら、
「この手紙をね、ここの家の玄関の戸の隙間(すきま)から、ソッと投げ込んでくるのじゃ。よいかな。誰にも見られぬよう、充分気をつけてな」
と命じた。
この運転手、ただのやつではないとみえて、妙な命令を疑いもせず、無言のまま車を降りると、忍び足で門内に消えて行った。

 

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