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十四 バスカーヴィル家の犬(5)_バスカービル家の犬(巴斯克威尔的猎犬)_福尔摩斯探案集_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3339

「燐 りん だよ」私が言った。

「実に狡猾に仕組んだものだ」ホームズは死んだ犬の匂いをかぎながら言った。「犬の嗅

覚を迷わすような匂いは何もない。サー・ヘンリー、あなたをこれほど恐ろしい目に合わ

せたことを深くおわびいたします。私も犬がとびだすだろうとは予期していました。です

が、こんな代物とは思わなかったのです。それにこの霧です。あっという間もありません

でした」

「あなたのおかげで助かりました」

「はじめは、すんでのところで危なかったのですからね。もうお立ちになって大丈夫です

か」

「ブランデーをもう一杯下さい。それでもう大丈夫です。どうも! さて、手をかして立

たせて下さいませんか? ところで、どうすればよろしいでしょうか」

「ここにお残り下さい。今夜はこれ以上の冒険は、あなたにはご無理です。お待ち下され

ば、このうちの誰かがお屋敷までお伴します」

 彼は自分でよろめきながらも、歩こうとしたが、顔色はまだおそろしく蒼く、身体じゅ

うが、がたがたふるえていた。われわれは彼に手をかして、とある岩のところに連れて

いった。彼は両手に顔をうずめると、身をふるわせて、そこへ坐りこんでしまった。

「さ、私たちは出かけなければなりません」とホームズは言った。「残った仕事をかたづ

けねばなりません。一刻を争うのです。事件は片づいたのですから、今度は犯人をつかま

えたいのです」

「彼が家にいることは、まあ絶対にないね」いそいで道をひきかえしながらホームズは

言った。「ピストルの音で、事は終りだとわかったに違いない」

「かなり離れていたし、この霧でうまく聞こえなかったかも知れないぜ」

「あいつは連れもどすのに、犬の後をつけて来たよ。そうだろうじゃないか。いまじぶん

家になんかいるものか。しかし家 や さがしをして確かめてみよう」

 玄関のドアは開けはなたれていた。そこでわれわれはなだれこむと、大急ぎに部屋から

部屋へとさがしあるいた。廊下で出くわしたよぼよぼの老召使いはあっけにとられて見て

いた。食堂のほかは灯が消えていた。しかしホームズはランプをとりあげて、残るくまな

く調べあげた。われわれの追っている男の気配はまるでなかった。だが二階へ上がると、

寝室のドアのひとつに錠がかかっていた。

「おお、誰かが中にいる!」レストレイドが叫んだ。「動く音がする! 開けましょう」

 かすかなうめき声と衣ずれの音が、中から聞こえて来た。ホームズは靴の裏で錠の真上

をけとばすと、ドアはバタンと開いた。ピストルを手に、われわれ三人はどっと部屋へな

だれこんだ。ところが、そこには、われわれが出くわすと思っていた、捨鉢 すてばち に挑みかか

る悪漢のけぶりもなかった。そのかわり、思っても見なかった、実におかしな物にぶつ

かった。われわれはおどろいて、しばらくそれを見つめてつっ立ったままだった。

 部屋はちょっとした博物館になっていた。壁には、蝶 ちょう や蛾 が の一杯につまったガラス蓋

のケースがずらりとならんでいた。それはあの二重人格をもった危険な男が、その趣味と

して作っていたものである。部屋の真ん中には、垂直な梁 はり が立っていた。それはあると

き、屋根を支えている、古い虫食いの材木に、支えとしてとりつけられたものであった。

その梁にひとりの人間がしばりつけられていた。シーツ類でぐるぐる巻きにされ、固く動

けなくされていたので、しばらくは女とも男とも見分けがつかなかった。一本のタオルを

喉首にまきつけて、柱の後ろで結びつけられ、もう一本は目から下をおおっていた。その

上から黒い両眼が、悲しみと恥ずかしさと、何かひどく物問いたげな色をたたえて、われ

われを見かえしていた。

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01/19 19:15
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