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本陣殺人事件--三本指の男(1)
日期:2023-11-21 16:44  点击:252

本陣殺人事件

本陣殺人事件

  三本指の男

 この稿を起こすにあたって、私は一度あの恐ろしい事件のあった家を見ておきたいと

思ったので、早春のある午後、散歩かたがたステッキ片手に、ぶらりと家を出かけていっ

た。

 私が岡山県のこの農村へ疎開して来たのは、去年の五月のことだが、それ以来、村のい

ろんな人たちから、きっと一度は、聴かされるのが、一いち柳やなぎ家けのこの妖よう琴

きん殺人事件である。

 いったい人は私が探偵小説家であることを知ると、きっと自分の見聞した殺人事件など

を話してくれる。この村の人たちもご多分に洩もれずそれだったが、その人たちの誰でも

が、きっと一度は持ち出すのが、この話であった。それほどこの事件は、土地の人々に

とって印象的だったと見えるのだが、それでいてその人たちの多くは、まだこの事件のほ

んとうの恐ろしさは知っていなかったのである。

 いったい人が語ってくれるそういう話に、語り手が感じているほども面白い事件はほと

んどないといってよかった。ましてや、それが小説の材料になるというような事は、少な

くとも私には今まで一度もなかったことだが、しかしこの事件は違っているのである。私

は、はじめてこの話の片へん鱗りんをきいたときから、非常な興味を覚えたのだが、やが

て、この事件にもっとも精通しているF君から、事の真相を聞くに及んで、なんともいえ

ぬ大きな昂こう奮ふんにとらえられたものである。それはふつうの殺傷事件とはまるで

違っており、そこには犯人の綿密な計画があり、しかもなんとこれは、「密室の殺人」に

相当するものであった。

 およそ探偵小説家を以もつて自負するほどの誰でもが、きっと一度は取り組んでみたく

なるのが、この「密室の殺人」事件である。犯人の入るところも、出るところもない筈は

ずの部屋の中で行なわれた殺人事件、それをうまく解決することは、作者にとってなんと

いう素晴らしい魅力だろう。だからたいていの探偵小説家がきっと一度はこれを取り扱っ

ているし、畏友井上英三君の説によると、ディクソン・カーの如ごときはその全作品が

「密室の殺人」の変型であるという事だ。私も探偵小説家冥みよう利りに、いつか一度は

このトリックと真っ向から取り組んでみたいと思っていたのだが、なんと今や労せずし

て、それを自分のものにする幸運に恵まれたのだ。してみれば私は、あの恐ろしい方法で

二人の男女を斬り刻んだ凶悪無む慚ざんな犯人に対して、絶大な感謝を捧ささげなければ

ならないのかも知れない。

 私はこの事件の真相をはじめて聞いたとき、すぐに今まで読んだ小説の中に、これと似

た事件はないかと記憶の底を探ってみた。私は先まずルルーの「黄色の部屋」を思いうか

べた。それからルブランの「虎の牙きば」や、ヴァンダインの「カナリヤ殺人事件」と

「ケンネル殺人事件」や、ディクソン・カーの「プレーグ・コートの殺人」や、さてはま

た密室の殺人の一種の変型であると思われるスカーレットの「エンジェル家の殺人」まで

思いうかべた。しかしそれらの小説のどれともこれは違っていた。ただ、犯人がそれらの

小説を読んでいて、そこに含まれたトリックをいったんバラバラに解きほぐし、その中か

ら自分に必要な要素だけを拾い集めて、そこに新しい一つのトリックを築き上げたのでは

あるまいか。──と、そう思われる節がないでもなかったが。……

 似ているといえば「黄色の部屋」が一番この事件と似ているかも知れない。但しそれも

事件の真相ではなく、現場の雰囲気である。この事件のあった部屋は、黄色いかべ紙の代

わりに、柱も天井も長押なげしも雨戸も、全部紅べに殻がらで塗られていたという。もっ

ともこの地方では紅殻塗りの家は珍しくなく、げんに私が疎開して来ている家などもそれ

である。但し私の家はずいぶん古いので、紅あかいというより黒光りに光っているが、こ

の事件のあった部屋は、当時塗りかえられたばかりだというから、さぞや鮮やかな紅色を

呈していた事だろう。しかも畳や襖ふすまも真新しく、金きん屛びよう風ぶを引き回して

あったというから、そこに男女二人が血みどろになってたおれていた光景は、さぞ強烈な

印象だったろう。

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