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本陣殺人事件--大惨劇(1)
日期:2023-11-21 19:18  点击:266

大惨劇

 久保銀造は自分の寝室としてあてがわれた、一柳家の奥座敷で、ひとり寝床へ入ると、

急に疲れが出たような気持ちだった。

 それも無理ではない。今度の結婚についての彼の気き遣づかいには、なみなみならぬも

のがあったのである。

 農村の封建的な感情や習慣を、知り過ぎるほど知っている銀造は、どちらかといえばこ

の結婚には気がすすまなかった。かつては自分たちの地主であった一柳家の嫁になること

が、克子にとって果たして幸福であるかどうか、銀造には危ぶまれたのである。

 しかし当人の克子もすすんでいる事だし、それに銀造の妻が、

「兄さんが生きていらっしゃればきっとお喜びになりますわ。一柳さんのお嫁さんになれ

るなんて、大した出世じゃありませんか」

 と、そう言った一言で銀造も心が決まった。

 克子の父の林吉と銀造の兄弟は、若い時分にアメリカへ渡ったが、林吉の方が年がいっ

ていただけに、旧ふるい日本の習慣や階級に対するあこがれは、銀造などと比較にならぬ

ほど大きく、かつ深かった。なるほど、兄貴が生きていれば喜ぶだろう……そう思うと、

自分で不本意な縁談でも承諾しなければならなかった。

 そうして一旦心がきまると、後はまっしぐらに突進する銀造だった。

 克子に恥を搔かせてはならぬ。一柳の親しん戚せきから後ろ指を指されるような事が

あってはならぬと、銀造の心遣いはひととおりではなかったが、さすがにアメリカ仕込み

だけあって、彼は万事を能率的かつ精力的に取り運んだ。金に決して糸目をつけず、京都

や大阪の大きな呉服商から、どんどん着物を取り寄せた。

「あらあら大変、こんなにして戴いて叔父さん、わたしどう致しましょう」

 克子の方が却って驚いたりあきれたり、果ては涙ぐんだりしたが、銀造のこういう心遣

いはすべて無駄ではなかったのである。

 中なか宿やどに頼んだ村長の家から、いよいよ晴れの衣装で一柳家へ乗り込んだ時の克

子の美しさには、人の眼を奪うものがあった。送り込まれた道具や調度の類の立派さも、

長く村の話題になったくらいで、さすがに気位の高い一柳家の人々さえ、眼を瞠っていた

さまを思い出すと、銀造はこの上もなく満足だった。

「兄貴もこれで満足だろう。兄貴もきっと喜んでくれるだろう」

 そう呟つぶやいているうちに、銀造はいつか胸が熱くなり、しぜんと涙があふれて来る

のだった。

 台所はまだ飲んでいるらしく、みだらな唄声がつづいている。それが耳について銀造は

なかなか眠れなかったが、それでも幾度か寝返りしているうちに、やっとうとうとしはじ

めた。そうしてどのくらい眠ったのか──何かしら寝苦しい夢を見ていた銀造が、突然はっ

と眼をさましたのは、唯ならぬ悲鳴をきいたような気がしたからである。

 銀造はがばと寝床の上に起き直っていた、夢ではなかった。同じ悲鳴が男とも女ともつ

かぬ、なんともいえぬほど恐ろしい悲鳴が、一声二声、またもや夜の静けさをつんざいた

かと思うと、どどどどと床を踏み鳴らす音がした。

 離家だ!──と、気がついた瞬間、銀造はもうシャツに腕を通していた。パジャマの上か

らガウンをひっかけ、電気をひねって腕時計を見ると、時刻は正に四時十五分。

 この時だった。あの琴の音がしたのは。

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