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本陣殺人事件--琴爪の新用途(1)
日期:2023-11-22 08:30  点击:281
琴爪の新用途
 この物語の材料を私に与えてくれたF君のお父さんという人は、いまはもう故人となっ
ているが、古くからこの村に住んでいたお医者さんで、事件の当時一番に駆けつけてきた
のはこのF氏であった。
 F氏は一柳のこの妖琴殺人事件によほど興味を感じたと見えて、当時詳細な覚え書きを
作っておいたのがいまに残っている。私がいま書き綴っているこの物語は、主としてその
覚え書きによるものだが、その覚え書きの中に、事件のあった一柳家の離はな家れの見取
り図は、これらの物語を進めていくうえにたいへん重宝なものであるから、ここにそのま
ま写しておく事にする。
琴爪の新用途

さて、作男源七の注進によって、F氏や駐在所のお巡まわりさんが駆けつけて来たの

は、そろそろ夜が明けようとする六時頃のことであった。お巡りさんは現場を見るとすぐ

一大事とばかりに、総──町の警察へ電話をかける。総──町の警察からはまた県の警察本

部へ報告する──と、そういう順序で続々と係官が駆けつけて来たが、何しろ不便な田舎の

こととてそういう人たちの顔が揃そろったのは、もうかれこれお午ひる時分の事だったら

しい。

 ここで係官の現場検証や、関係者一同の聞き取りがあった筈だが、そういう事をいろい

ろ記していては長くもなるし、読者を退屈させるおそれもあるので、ここではこの事件を

担当した磯川警部が、現場の捜査や、関係者からの聞き取りの結果得た事実を、なるべく

簡単に書き止めておくことにしよう。

 先ず第一に問題となったのは、なんといっても足跡である。磯川警部が駆けつけて来た

のは午前十一時頃のことだったが、その頃にはそろそろ雪も解けはじめていた。しかし雪

の上に一つの足跡もなかったことは、銀造や良介、さては源七の言葉によって疑うわけに

はいかなかった。この事が後々まで警部を悩ます種となったが、ではそこに絶対に足跡が

なかったかというとそうではない。

 ここで前に掲げた見取り図を参照して戴きたい。離家の北側は崖になっていて、崖と離

家の間は一間幅ほどの空地になっているが、そこは崖のうえから竹藪がおおいかぶさって

いるので雪も積もっていなかった。ところがその空地には点々として靴の跡がついている

のである。いや足跡のみならず、後ろの崖には誰かが滑りおりたような痕あともあった。

そういうところから判断すると、近ごろ誰かが裏の崖から空地へ飛び下りたらしい事は確

かである。その足跡は見取り図にも示してあるように、東へ向かっているのだが、玄関の

まえあたりまで来ると、もう雪のために揉もみ消されていた。しかし、それと同じ泥靴の

跡が、玄関の中の三和土たたきに残っているところを見ると、崖から飛び下りたその人物

は、東へまわって玄関から離家のなかへ入ったらしい。

 しかもこの靴跡というのが先のへしゃげた、かかとのゆがんだ、誰の眼にもすぐ分かる

ボロ靴の跡だったが、そういう靴を持っている者は一柳家にはいなかったから、これを犯

人の足跡と判断してもまず間違いはなさそうであった。つまり犯人は裏の崖から飛び下り

て、玄関から中へ忍び込んだという事になるが、ではそれは何時頃のことであったろう。

……それを決定するためには、あの雪がたいへん役に立った。

 この地方に雪が降りはじめたのは、前夜の九時頃のことで、真夜中の三時頃にはそれが

歇やんだのだから、犯人が離家へ忍び込んだのは九時以前か、あるいは、まださかんに雪

の降っていた二時頃までということになる。しかし、玄関の三和土に残っている泥靴の跡

が、雪を踏んで来た跡とは見えなかったので、これは先ず九時前と見て差し支えなさそう

であった。

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