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本陣殺人事件--琴爪の新用途(2)
日期:2023-11-22 08:39  点击:291

 ところで七時頃に離家の雨戸を閉めて出ていった新家の秋子の証言によると、その時に

は玄関にそんな足跡はなかったというから、犯人の忍び込んだのはそれ以後ということに

なる。つまり七時頃から九時頃まで──それは母屋で祝言の式の行なわれていた最中だか

ら、常識からいっても先ずそのへんと判断される。

 では、七時頃から九時頃までの間に忍び込んだ犯人は、それからどうしていたかという

と、ここで再び見取り図を見て戴きたい。西側の便所のまえに半間の押し入れがついてい

るが、犯人はこの押し入れの中にかくれていたらしい。そこには古夜具だの抜き綿だのが

押し込んであったが、その抜き綿の上に、誰かがもたれかかっていたらしい痕がくっきり

とついているのである。それのみならずこの押し入れの中には凶器として用いられた日本

刀の鞘さやも落ちていた。

 一体この日本刀というのは一柳家のもので、その晩離家の床脇に飾ってあったものだ

が、犯人は押し入れへ入るまえにそれを持っていったらしい。したがって一時過ぎそこで

床盃があった時にはすでに床脇に刀はなかった筈だが、誰もそれに気がつかなかったとい

うのは、床脇の前に金屛風が立ててあったからである。

 だがそれにしても、二時には新郎新婦は寝床へ入った筈である。それだのに犯人は何故

四時まで犯行を待たなければならなかったのか。それにはいろいろの解釈があるが、その

うちもっとも妥当と思われるのは、その晩が結婚の初夜であったということである。賢蔵

も克子もおそらくなかなか眠れなかった事だろう。犯人はそういう二人の眠りつくのを

待っていたのだろう……とそう言われたが、ここでもう一度押し入れの位置に注意して戴

きたい。

 この押し入れは新郎新婦が枕をならべて寝た八畳とは壁一重である。犯人はおそらく新

郎新婦の一挙手一投足を、その睦むつ語ごとを、その息使いを、その溜め息を、身をもっ

て聞き、身をもって感じていたにちがいない……

 この事件でもっとも物もの凄すごく感じられたのはその点で、銀造もこの話を聞いた時

には、なんともいえぬ暗い顔をしたものだが、それはさておき、漸ようやく二人が寝すま

したのを見ると、犯人は抜き身をひっさげて押し入れを出た。そして西側の障子を開いて

そこから八畳へ入っていったのだが、その前にかれはちょっと妙なことをやっている。い

や、やったらしいと判断されるのである。

 床脇の書院窓。その書院窓の障子のうちで、床の間に一番近いのが一枚細目にひらいて

ある。ところで床盃の席で克子が琴を弾き終わったとき爪つめ筥ばこを新家の秋子が、床

の間の端へおいたという事は前にも述べたが、その爪筥の位置は細目に開いた障子の隙

の、すぐ眼の下にあたっていた。犯人は障子の隙から手をのばし、その爪筥に、手をかけ

たのである。そしてその中から三本の琴爪を取り出して、それを指にはめたらしいのであ

る。

 こう判断されるのは、金屛風に残った血塗れの三本の指跡である。前章の終わりでこの

指跡にはなんともいえぬ妙なところがあったといっておいたが、つまりその指跡には指紋

がなかった。のっぺらぼうの琴爪の跡だったのだ。

 ここで琴爪というものの性質を思い出して戴きたい。それはふつうの爪とは反対に、指

の腹に嵌はめるようになっている。つまり琴爪を嵌めると指紋がかくれるのだ。犯人はそ

れを知っていて、犯行にとりかかるまえに琴爪をはめたらしい……と、そう考えられるの

である。しかも血にまみれた三本の琴爪が、便所のなかの手洗い場の棚のうえから発見さ

れたのだから、いよいよもってこの推定はたしかなものと裏書きされた。

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