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本陣殺人事件--鎌と琴柱(3)
日期:2023-11-22 08:46  点击:293

 警部が庭下駄をつっかけておりた時である。さっきから離家の西側を丹念にしらべてい

た若い刑事が、うしろから彼を呼びかけた。

「警部さん、御用がすんだらちょっとこっちへ来て下さい。妙なものがあるんです」

「なんだ、なんだ、何か新しい発見があったかい」

 刑事が案内したのは離家の西側に突き出している便所のすぐまえである、ここでもう一

度前に掲げた見取り図を参照して戴きたい。そこには掃き寄せた落ち葉がうず高く盛りあ

げてあるが、刑事は棒の先でその落ち葉を搔き分けると、

「ほら、あれをご覧なさい」

 警部はそれを見ると思わず眼を瞠った。

「あっ、こりゃ琴の柱じじゃないか」

「そうですよ、なくなった琴柱ですよ、こんなとこへ投げこんで行きやがったんです。ね

え警部さん、これで見ても犯人がこっちへ逃げ出たことはわかりますよ。ひょっとする

と、便所の窓から投げ出したんじゃないかと思ったんですが、見るとこの便所の窓はみん

な目の細かい金網が張ってあります。とてもそこから琴柱は投げ出せません。雨戸の上の

欄間からじゃ角度からいって無理ですしねえ。ところでこいつうまいぐあいに落ち葉に埋

もれていたので、大して濡れてもいないんです。どうやら血に染まった指の跡がついてる

ようですよ」

 警部もそこから便所の窓を見上げ、雨戸のほうを眺めたが、これは刑事のいうとおり

だった。

「よし、それじゃ気をつけてね、鑑識課へ回しておきたまえ。発見はそれだけか」

「いえ、もひとつあるんです。こっちへ来て下さい。ほらあれですよ」

 刑事が指さしたのは、頭上に覆おおいかぶさっている、樟の大木の繁みのなかである。

「ほら、下から三ツ目の枝のところに鎌かまがぶち込んであるでしょう。さっき登ってみ

たんですが、物凄く幹にぶち込んであって、とても私の力じゃ抜けないんです。柄を見る

と植半と焼印が捺おしてあります」

「植木屋が忘れていったんだろう」

「この庭を見るとちかごろ植木屋が入ったことは確からしい。しかし鋏はさみならともか

く、あんなとこへ鎌をぶち込んどくというのは妙じゃありませんか」

「そういえばそうだね」

 警部はちょっと考えて、

「あの鎌はそのままにしとき給え。で、ほかには……ああそう、それじゃあの琴柱を鑑識

課へ回してね。なお、念のためにそのへんをよく探して見給え」

 警部が母屋へやって行くと、一柳家の人たちは、全部茶の間に集まっていた。

 銀造も部屋の隅で、マドロスパイプからしきりに煙を吐いていた。彼は今朝郵便局から

帰って来ると、そこへ陣取ったまま絶対に動こうとはしないのである。彼は誰ともほとん

ど口を利かなかった。唯黙って、マドロスパイプを吹かしながら、みんなのひそひそ話を

聞いている。一同の眼付きや挙動を、じろじろと、遠慮を忘れた眼でうかがっている。そ

ういう銀造の存在は、一柳家の人々にとって、梅つ雨ゆ空ぞらにおおいかぶさった雨雲の

ように重っ苦しく、息苦しかった。わけても良介と三郎は、かれの顔を見るたびに、おど

おどと、怯おびえたように眼をそらした。

 ただ鈴子だけは、一見怖こわそうに見えてその実、どっか親切そうなところのあるこの

小父さんに、いつの間にか馴染んで、いまも甘ったれるようにその膝にもたれかかってい

た。

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