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本陣殺人事件--鎌と琴柱(4)
日期:2023-11-22 08:47  点击:266

「ねえ、小父さま」

 と、銀造の関節の太い指を弄もてあそびながら鈴子はいうのである。

「わたし……妙なことがあるのよ」

「…………?」

 銀造はパイプを咥くわえたまま鈴子の顔を見る。

「昨夜、真夜中に琴の音がしたわねえ。はじめのはコロコロコロシャンって、琴爪をはめ

た指で、めちゃめちゃに搔きまわすような音だったわねえ。それから二度目にまた、ピン

ピンピンと、なんかで琴の糸を弾はじくような音がしたわねえ、小父さん、憶えてて?」

「ああ憶えてるよ。それがどうしたの」

「わたしねえ、一昨日の晩も、おんなじような音を聞いたのよ」

 銀造は思わず眼を瞠って鈴子の顔を見直した。

「鈴子さん、それはほんとうかな」

「ええ、ほんとうよ。やっぱり、離家のほうから聞こえたのよ」

「そして、昨夜みたいにコロコロシャン……て、めちゃめちゃに琴の糸を搔き回すような

音だったのかい」

「ううん、そうじゃないわ。そういう音もしたかも知れないけど、その時にはわたしきっ

とよく寝ていたのよ。鈴子がきいたのはピンピンピンと琴の糸を、弾くような音だけよ」

「いったい、それは一昨日の晩の何時頃?」

「何時頃だか知らないわ。鈴子怖くなって寝床のなかにもぐり込んでしまったんですも

の。だって、その晩は離家に誰もいなかった筈でしょう。お琴だって、こっちにあったの

よ。ねえ、小父さま、猫ってほんとうに死ぬと化けるの」

 鈴子の話はいつもこれである。相当筋のとおった話をしているかと思うと、突然、それ

が妙なほうへ飛躍してしまう。

 しかしいま鈴子の洩らした言葉、一昨夜の晩も琴の音がしたという話には、何か重大な

意味がありはしないか……銀造がそれを訊き直そうとしたところへ入って来たのが磯川警

部だった。それで鈴子と銀造の話はそれなりになってしまった。

「ちょっと皆さんにお訊ねしたい事があるんですがねえ。亡くなった賢蔵さんは、いつか

どこかの島に滞在していたことがありますか」

 警部の問いに一柳家の人々は顔を見合わせた。

「さあ、……良さん、あなた憶えている? 賢蔵はちかごろちっとも外へ出なかったわね

え」

「いや、ちかごろでなくてもいいのです。ずっと以前でも構わないのです。島へ旅行した

とか、島に滞在していたとか……」

「ああ、それならそういう事もあったでしょう。若い時分兄貴は旅行好きで、よくほうぼ

うを歩いたようですから、しかし警部さん、そのことが今度のこととなにか……」

 隆二は眉をひそめて警部の顔を見守っていた。

「ええ重大な関係があるらしく思われるんです。で、その島の名前がわかればいいと思う

んだが……実はこれですがね」

 と、警部は裏貼りをした例の警告状めいた手紙を見せると、

「ここに妙なことが書いてありましてね。ひとつ読んでみますから、この手紙の意味を考

えて下さい」

 警部がその手紙を読み上げて、最後に、「君のいわゆる生涯の仇敵より」というところ

まで来たときである。

 一同のなかにふいに、微かな叫び声を洩らした者があった。それは三郎だった。三郎は

警部の詰問するような視線と、一同の物問いたげな眼つきに射すくめられて、真っ蒼に

なってソワソワしていた。

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