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本陣殺人事件--捜査会議(1)
日期:2023-11-22 08:47  点击:295

捜査会議

 三郎の妙な素振りは、一同の注意をひかずにいなかった。

「三郎、おまえ何かいまの手紙に心当たりがあるのかい」

 眉をひそめてそう訊ねたのは隆二である。三郎は、一同の視線が自分に集まっているの

に気がつくと、すっかり度を失って、

「僕……僕……」

 と、口くち籠ごもりながら、しきりに額の汗をこすっている。警部の視線はしだいに嶮

けわしくなって来た。

「三郎さん、何か心当たりがあるのなら、正直に言って下さい。これは大事なことですか

ら」

 どこか極めつけるような警部の調子に、三郎はいよいよあがり気味になったが、それで

もやっときれぎれに、こんな事をいった。

「僕……いまの手紙の最後にある言葉におぼえがあるんです。……生涯の仇敵……と、そ

ういう言葉を見たことがあるんです」

「見た……? どこで見たのですか」

「兄さんのアルバムです。賢蔵兄さんのアルバムに、名前もなにも書いてなくて、ただ、

生涯の仇敵……と、そう書いた写真が貼ってあるんです。僕……その言葉が妙だからいま

でもよく憶えているんです」

 糸子刀自と良介は、こっそり顔を見合わせた。隆二は不思議そうに眉をひそめる。銀造

はだまって向こうのほうから、そういう三人の顔を注意深く見まもっていた。

「そのアルバムというのはどこにありますか」

「書斎にある筈です。兄さんは自分のものを決してひとに触らせない人ですが、僕は偶然

の機会に、その写真を見たことがあるんです」

「ご隠居さん、書斎を探してもいいですか」

「さあどうぞ。三郎さん、あなたご案内してあげたら……」

「私もいこう」

 隆二が腰をあげたあとから、銀造もだまって立ち上がっていた。

 賢蔵の書斎は玄関の左、即ち母屋の東南の角にあって、十二畳じきくらいの洋風の部屋

であるが、南からつきだした半間の壁によって、だいたい二つの部分にくぎられている。

このくぎられた狭いほうは、三郎の勉強部屋になっているらしく、ドアはこの勉強部屋

の、北側についていた。だから賢蔵が自分の書斎として占有しているところは、結局八畳

くらいのひろさだが、この部分の東と北の壁は、床から天井まで、ぎっしりと洋書のつ

まった本棚で埋まっており、南側の窓よりのところに大きなデスクがすえてある。そして

二つの区画のほぼ中央に鉄製の大きなストーヴがおいてあった。

「三郎さん、そのアルバムというのはどこにありますか」

「本棚の……そこんところ……」

 なるほどデスクの左側、本棚のいちばん手ぢかな一段には、賢蔵の日常生活に身ぢかな

ものがおいてあったらしく、アルバムだの、日記帳だの、切り抜き帳だのが、きちんとよ

く整理されてならべてあった。三郎がその中からアルバムを抜き取ろうとすると、警部が

あわててその手をおさえた。

「いや……ちょっと待って下さい」

 警部は本棚のまえに立って、注意深くその一段を眺めている。

 賢蔵という人はよほど几き帳ちよう面めんな人であったとみえて、日記なども全部保存

してあり、大正六年からはじまって、昭和十一年、即ち昨年の分まで二十冊、年代順にき

ちんとならべてある。しかもその全部が、東京の某書店から発行されている、同じ判、同

じ装そう幀てい、同じ紙質の日記帳であり、こういうところにも賢蔵という人の人柄がう

かがわれた。

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