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本陣殺人事件--猫の墓(1)
日期:2023-11-22 08:54  点击:283

猫の墓

 金田一耕助が、山ノ谷の一柳家へ着いたのは、正午少しまえのことだった。なるほど部

落へ近づいていくにしたがって、あたりはなんとなくものものしく、自転車に乗ったお巡

りさんが右往左往しているのも、事件のあった後らしかった。

 耕助が着いた時、一柳家の人々は例によって茶の間に集まっていたが、その一隅に黙然

としてすわっていた銀造は耕助の名前をきくと、俄かに生き生きとした表情を取り戻し

た。

「やあ、よく来てくれたね」

 玄関へ出迎えた銀造の顔には、この人には不似合いなほど懐しさが溢あふれていた。

「小お父じさん、この度はどうも……」

「いや、そんな事はあとでもいい、それよりこっちへ来たまえ。皆さんに紹介しとこう」

 金田一耕助が来るということは、前の晩、銀造の口から披露してあったので、茶の間に

集まっていた一柳家の人々は、どういう人物が現われるかと、一種の好奇心をもって待ち

かまえていた。

 ところがそこに現われた人物を見ると、年齢からいっても三郎とあまり違わないし、し

かももじゃもじゃ頭の、風采のあがらぬ人柄だから、みんなちょっと呆あつ気けにとられ

た感じであった。鈴子の如きは眼を瞠みはって、

「あら、えらい探偵さんというのはあなたのことなの?」

 と、無邪気な質問を発したくらいである。

 糸子刀自と三郎と良介は、ちょっとどぎもを抜かれたかたちで、まじまじとこの青年の

顔を見詰めていた。隆二だけがそれでも、おだやかに遠来の労をねぎらった。

 銀造は紹介をおわると、すぐ耕助をつれて自分の部屋へかえっていった。そしてそこで

一昨夜からの出来事を、出来るだけ詳しく語って聞かせたが、その中には耕助が、すでに

新聞で知っているところもあったが、まだ知らない部分も多かった。銀造は話し終わると

最後にこう付け加えた。

「……で、今のところ三本指の男という、得体の知れぬ男が犯人ということになっている

が、わしにはどうもいろいろ解げせぬ筋があるんですね。まず第一にあの隆二という男だ

が、あの男は事件のあった朝早く、三郎と一緒にこの家へ帰って来たのだ。その時あの男

は、いま九州から着いたばかりだというような事をいっていた。ところが、実際はその前

の日に、克子をつれて玉島から汽車に乗ったとき、あの男もたしか同じ汽車に乗っていた

のだよ」

「ほほう!」

 耕助は口笛を吹くような音をさせた。

「すると殺人のあった時刻にこの付近にいたという事をかくしているんですね」

「そうなんだ。わしと同じ汽車で来たということを、向こうでは気がついていないんだ

ね。しかし二十五日の晩から二十六日の朝にかけて、この近所にいた事は間違いないと思

う。それだのに、何故あんな噓をつくのかわしにはわからないし、第一、二十五日の晩、

こちらにいながら、どうして婚礼の式に出なかったのか、それからしてどうも解せない」

 銀造は嶮しい眼をして茶の間のほうを見ていたが、やがて吐き出すようにこう付け加え

た。

「いや、あの男ばかりじゃないのだ。この家の者はみんな変だよ。何か知っていて、それ

を隠しているとしか思えない。それが互いにかばい合っているようにも見えるし、反対に

みんなして疑いあっているようにも見えるんだ。どうもそこのところが妙な空気で、わし

はそれが、気に食わんのだ」

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