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本陣殺人事件--猫の墓(3)
日期:2023-11-22 09:13  点击:251

「僕──提灯をとって来ます」

 三郎はそう言って引き返したが、すぐ後ろから提灯をともして追っかけて来た。

 そこは屋敷の東北の隅にあたっていて、離家をへだてる建仁寺垣の外側になっていた

が、その辺いったい大きな欅けやきや楢ならの木がしげっていて、あたり一面、うず高く

落ち葉が散り敷いていた。そういう落ち葉のなかに、小さく盛りあげた塚のようなものが

こさえてあって、その土饅頭のうえに白木の柱が立ててあり、柱には、多分三郎の筆らし

い、くせのある字で「玉公の墓」と書いてあった。墓標のまえには二、三輪、白い野菊の

花が挿してある。

 一同はその墓を中心として、木立の下を探してみたが、かくべつ怪しい姿も見当たらな

かった。三郎の持って来た提灯で、地面を調べてみたが、前にもいったようにその辺いっ

たい深い落ち葉が散り敷いているので、足跡らしい足跡は一つも発見することが出来な

かった。かれらは更に手分けして、屋敷じゅうを探してみたが、どこにも怪しい影は見え

なかった。

「そこで一同は茶の間へひっかえして来ると、鈴子を取りまいて、いろいろ訊ねてみたの

だが、あの娘の話というのがどうも取りとめがなくてね。なんでも猫のお墓参りにいった

というんだが、そんな真夜中に、猫の墓参りもおかしい。そこでわしはさっきもいったよ

うにあの娘には夢遊病の習癖があるんじゃないかと思うんだ。昨日からあの娘は妙に死ん

だ猫のことを気にしていたからね。そこで夜中にフラフラと起き出して、墓参りにいった

ところが、そこで怪しい男に出会ってはっと眼が覚めたんじゃないかと思う。で、その時

あの娘は夢とうつつの境みたいな状態だったんだろうと思うが、なんでも、猫の墓の向こ

うに変な男がしゃがんでいた。そいつは顔じゅう隠れてしまいそうなほど大きなマスクを

かけていたが、それがまるで、くわっと口がさけているように見えたというんだ。そこで

鈴子がきゃっと叫んで逃げ出そうとすると、それをつかまえようとするように、男は右手

を前に突き出したが、その手には指が三本しかなかった……と、これが鈴子の話なんだ。

前にもいったように、あの娘は少し頭が変だ。知能がだいぶおくれているように思う。だ

から当てにならないといえばならないが、この家の中ではわしはあの娘のいう事が、いち

ばん信用出来るような気がするんだ。少なくとも故意に噓をつくようなことはあるまい。

だからあの娘が見たといえば、たしかに見たにちがいないと思う。それに、三本指の男が

その辺にいたという、たしかな証拠ものこっているんだよ」

「証拠……? その証拠というのをお伺いしたいのですがね」

「それはこうなんだ。夜が明けてからわれわれはもう一度、猫の墓のまわりを調べてみた

んだ。足跡でも発見出来ないかと思ってね。残念ながら落ち葉のために足跡は発見出来な

かったが、その代わりそれ以上たしかな証拠を発見したんだよ。指紋だ、三本指の指紋だ

よ」

「指紋がいったいどこに残っていたんですか」

「墓標に……猫の墓のうえにくっきりと、泥によごれた三本指の指紋がついていたんだ

よ」

 耕助はまた、口をすぼめて、口笛を吹くような音をさせた。

「そしてその指紋というのが、たしかに問題の三本指の指紋にちがいないのですね」

「うむ、今朝早く警察の者がやって来てね、調べたところがたしかに問題の指紋にちがい

ないというんだ。だから昨夜三本指の怪物が、またこの屋敷へやって来たことには、疑う

余地はないわけだよ」

 銀造は鋼鉄のような感じのする眼で、じっと耕助の顔を見ていたが、その眼のなかには

あきらかに、深い疑惑のいろが見られた。

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