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本陣殺人事件--猫の墓(4)
日期:2023-11-22 09:13  点击:243

「いったい、その猫の墓というのは、いつからそこに立っているんですか」

「昨日の夕方からだそうだ。もっとも猫の死骸をそこへ埋めたのは、一昨日の朝、つまり

婚礼の日の朝のことだったそうだが、その時には墓標は間に合わなかった。そこで昨日、

三郎にせがんで墓標をこさえてもらうと、女中の清といっしょに夕方ごろ、鈴子がその墓

標を立てにいったんだそうだ。そこで清を調べてみたんだが、その時にはたしかにそんな

指の痕なんかついていなかったと断言するんだ。何しろ削り立ての白木の墓標だから、そ

んなものがついていれば、清にしろ、鈴子にしろ、すぐ気がつくはずなんだがね」

「すると、どうしても昨夜のうちに、三本指の男が舞いもどって来たということになりま

すね。しかしなんの用があって舞い戻って来たんでしょう。また、なんだって猫の墓なん

ぞに手をかけたんでしょう」

「それについちゃ三郎がこういうんだ。犯人は何か忘れものをしていったに違いない。そ

れを取り戻しに来たんだろう……と、こういうんだが、すると、その時また鈴子がこんな

ことを言い出したのだ。誰か猫の墓をあばいたものがある。土饅頭の形が昨日とちがって

いる……と、そこで早速警官が猫の墓を掘りかえしてみたんだが……」

「何か出ましたか」

「いや、格別、何も出て来なかったようだ。蜜柑箱ぐらいの白木の箱のなかに、小猫の死

骸がひとつ……ほかに変わったものはなにもなかった」

「その猫の死骸を埋めたのは、一昨日の朝のことなんですね」

「そうなんだ。その晩、婚礼があるんだろう。猫の死骸なんかいつまでも置いといちゃ、

縁起が悪いと、おふくろに叱られて、二十五日の朝早く埋めたと鈴子が言っている。さっ

きもいうように、あの娘のいうことは信用しても先ず間違いあるまいと思うね」

 耕助が現場であるところの、裏の離家をしらべたのは、それから間もなくのことらし

い。

 いったい、こういう事件の際、警察以外のものが、無む闇やみに現場付近をほっつきま

わる事は許されない筈であったが、金田一耕助にはそれが出来たのである。この事につい

ては一柳家の人々はじめ村の連中も、非常に奇異な想いを抱いたらしく、私にこの物語を

してくれた故老もこんなふうに言っていた。

「何しろその若者が警部さんに、何やらくしゃくしゃと耳打ちすると、警部さんがたちま

ち恐れ入っちまいましてね。掌てのひらをかえすようにヘイコラしはじめたというんです

から、いや、もう大した評判でしたよ」

 そういうところからもこの青年は、一種、神秘的な存在として、村の人たちに印象づけ

られているようであるが、F君の話によると、それは耕助が中央のさる顕職にある人から

の、紹介状を持っていたからだという。

「その人はここへ来る前、大阪で何か調査をやって来たらしいんですが、その事件という

のがかなり大おお袈げ裟さなものだったらしく、警保局かなんかのお役人から身分証明書

のようなものを貰って来ていたんですね。何しろあの方面じゃ中央からの添書といえば、

神様のお札以上に効顕いやちこですからね。署長も司法主任もすっかり恐れ入っちまった

というわけらしいんですよ」

 しかし署長や司法主任が、この青年にひとかたならぬ好意を見せたというのは、中央か

らの添書のせいばかりではなかったように思われる。いろんな人から聞いた話を総合して

考えるに、この青年の取りつくろわぬ態度や、いくらか吃る口の利き方には、妙に人を惹

きつけるところがあり、かれから何か頼まれると、一肌ぬがずにはいられないというとこ

ろがあったらしい。

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