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本陣殺人事件--猫の墓(5)
日期:2023-11-22 09:13  点击:278

 この事件を担当していた磯川警部なども、その魔術にひっかかった一人で、この人はそ

の日の午前中、村の青年団を指揮していたが、正午すぎ一柳家へかえって来て金田一耕助

にあうと、たちまちこの青年の人柄にひきつけられてしまった。そこでかれは今迄に自分

の手で調べ上げた事実をすっかりこの青年のまえにさらけ出して聞かせたが、それらの事

実の中で、耕助が、いちばん興味をいだいたのは、アルバムに貼ってあった三本指の男の

写真と、ストーヴの中から発見された、燃えのこりの日記の断片であったらしい。そうい

う話を聞いている時、耕助はいかにも嬉しそうににこにこしながら、五本の指でがりがり

と、もじゃもじゃの頭を搔きまわしていたということだが、これがこの青年の昂奮した時

のくせだったということである。

「そ、その、写真や日記の燃えのこりは、いまどこにありますか」

「それは総──町の警察にありますが、なんなら、取り寄せてお眼にかけましょうか」

「そ、そうして戴ければ……で、ほかのアルバムだの日記帳だのは、まだ書斎にあるんで

すね」

「そうです。ご覧になりたければご案内しましょうか」

「え、ええ、そ、そう願えれば……」

 そこで警部に案内されて、賢蔵の書斎へ入っていった耕助は、アルバムだの、日記帳だ

のを出で鱈たら目めにひっぱり出して、パラパラとページを繰っていたが、すぐそれをも

との本棚に突っ込むと、

「いや、これはもっと後でゆっくり、調べることにしましょう。それではひとつ現場を見

せて貰いましょうか」

 そこで二人はまたその書斎を出ていきかけたが、ドアのそばまで来たときである。耕助

は何を思ったのか、突然、釘づけにされたようにその場に立ちどまった。

「警部さん」

 しばらくして、磯川警部を振り返った耕助の顔には、なんともいえぬ奇妙な表情がうか

んでいた。

「警部さん、あなたは何故あれのことを話してくれなかったのです」

「あれ……あれってなんですか」

「ほら、この書棚にぎっちりつまっている本……こ、これは探偵小説じゃありませんか」

「探偵小説……? え、ええ、そうですよ。しかし、探偵小説が何かこの事件と……?」

 しかし、耕助はそれには答えず、ずかずかとその書斎のまえに寄ると、大きな眼を瞠り

いくらか呼吸さえはずませながら、そこに並んでいる、探偵小説の排列に見とれていた。

 耕助がそんなにも驚いたのも無理はない。そこには内外のありとあらゆる探偵小説が網

羅されているのであった。古いところでは涙香本から始まって、ドイル全集、ルパン物、

更に博文館や平凡社から発行された翻訳探偵小説全集、日本物では江戸川乱歩、小酒井不

木、甲賀三郎、大下宇陀児、木々高太郎、海野十三、小栗虫太郎と、そういう人たちの著

書が、一冊あまさず集められているばかりではなく、未訳の原本、エラリー・クイーンや

ディクソン・カー、クロフツやクリスチー等々々、まったくそれは探偵小説図書館といっ

てもいいほどの偉観であった。

「い、い、い、いったい、こ、こ、これは、だ、だ、誰の蔵書なんですか」

「三郎ですよ。あの男は猛烈な、探偵小説のファンなんです」

「三郎──三郎──三郎といえば、さっきのあなたのお話では、け、け、賢蔵の保険金の受

け取り人になっているのでしたね。そ、そ、そして、その男が、い、い、一番たしかなア

リバイを持っているのでしたね」

 耕助はそこでまたがりがりと、もじゃもじゃ頭を無闇矢鱈と搔きまわしはじめたという

ことだ。

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